医師向け:ピコ秒レーザーの反応の2面性 | 美容外科開業医の独り言

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昨日、ピコ秒レーザーの原理について書いたら、多くのドクターからトーニングと通常のシミ取りでの反応の違いを教えてほしいというリクエストがあったので、医師向けにはなりますが解説します。一般の方には難しい内容ですので、ご了承下さい。

レーザーによる肝斑治療、トーニングは今では特別なものではなく、学会でも認められた、広く普及する治療法になりました。ただ、ピコ秒レーザーを用いる場合、そのピークパワーの強さを考えて慎重にしなければなりません。低出力、メラニン低吸収の波長を用いて空胞化が生じないよう、メラニン色素のみが破壊されメラニン細胞が破壊されない設定が大事です。これはQスイッチレーザーも同様で、過去に沢山の論文があります。

一方で通常のシミを取る場合は、空胞化が生じるよう高出力、高吸収の波長を用いる必要があります。空胞化が生じにくいNd:YAGではシミが取れない、焦げないのです。いかに限局された空胞を作るかが鍵です。
光熱作用と異なり光音響作用はそれを閉じ込めることが難しいとされ、ピコ秒レーザーはその可能性が示唆されています。
しかしながら、空胞は細胞のサイズよりはるかに大きなものです。メラニン色素どころか細胞内でさえ衝撃波は全く閉じ込められてないという事なのでしょうか?
トーニングとの最大の相違は空胞化なのです。
従来のQスイッチレーザーで考ると分かりやすいですが、出力を上げると即時の白色変化は強く、つまり空胞化がよりしっかり起こります。強すぎると表皮は剥離してしまいます。空胞が基底膜全体に生じて弾け飛ばしています。弱い出力だと白くもならず、つまり空胞は殆ど生じず、シミは焦げません。当たり前ですが、空胞のサイズは出力に依存するのです。では単に衝撃波がより拡散して空胞が大きくなるのでしょうか?そもそもピコ秒だと衝撃波が細胞より大きなサイズになり得るのでしょうか?
ここからは医学で解説した論文などなく、理論的な話になりますが、衝撃波つまり音は干渉されるエネルギーですし、広がれば弱くはなりますがエネルギーゼロではありません。1つ1つは小さな衝撃波でも隣接して重なれば干渉が生じ結果として大きく空胞になります。さらには隣接してたくさんの空胞が出来るほど強大な空胞が生まれます。メラニンどころか細胞よりダメージは大きくなります。
一方で出力と波長の選択を誤らなければ、空胞は生じず、エネルギーはメラニン色素細胞の中に閉じ込められます。
これがピークパワーとメラニンへの吸収率(波長)によって定義されるものだと考えられます。
この理論が全て正しいかどうかは断言できませんが、少なくとも空胞化が生じる出力・波長と、生じない出力・波長では、組織の反応が全く異なるのはナノ、ピコ秒レーザーともに分かっている歴然たる事実です。理論は理論ですが、事実だけ見てもその相違ははっきりしています。

つまりトーニングではパルス幅、衝撃波の閉じ込めが重視され、シミ取りではピークパワーが重視されます(もちろん100%どちらかという意味ではありません)。波長はもちろん両者において重要です。

これを使い分けていくのがそもそもナノ秒レーザーから始まったトーニング、そしてそれに続くピコ秒レーザーでのノーダウンタイム、ノーダメージな治療の流れです。
アジアではこの考えが主流となり、韓国でさえも今やノーダウンタイムが良いと言う患者様が多いとか。
日本では光熱作用を強力に使う、つまり空胞化を強大に起こす治療がまだ全盛ですが、そろそろ光熱作用の呪縛から逃れてグローバルな流れを掴まなければなりません。僅かな空胞を作るもしくは作らせず、かさぶたを軽くして、それでも確実にメラニンへの効果ある治療、これがピコ秒レーザーで最も期待されている手法です。
どんなに途中が大変でも1回で綺麗にシミを取らなければならないのか、何回かかかっても仕事に支障なく徐々に薄くなれば良いのか。

答えはどっちも、です。私は使い分けています。局所であればキッチリとシミを剥がし取るべきですし、広範囲であれば徐々に。
シミをしっかり取るなら従来の手法が一番。しかし薄くて難しいものや広範囲なものを、リスク少なく徐々に改善していく方が今のニーズとしては多いのも事実。多様性の受け入れが我々の分野でも必要です。
そして大事なことは、どのピコ秒レーザーでもゴールに定めているところは同じです。各社の特徴は異なりますが、ナノ秒レーザーとは異なった光音響作用を主にした機器なのです。それぞれの利点を理解して、どの機器を導入するべきかは医師個々によって違います。どれかしかダメなことはありません。もちろん、私はピコウェイ推しです(笑)

スキンケアが悪くて再発したら患者様を叱咤する医療ではなく、ユルく、軽く薄くして喜んで頂く治療の方が今の時代にマッチしているとも思います。医師ファーストから患者ファーストへ、一般医療もそんな流れではありますが、QOLを大事にする美容医療では患者様の幸せ、個々に違うと思いますので、医学的に正しい範囲の中でそれを叶えることが今後我々に与えられた命題ではないでしょうか。
まだまだ理論的に言うべき事はこの何倍もありますが、あとは学会で討論できれば幸いです。