最近、たるみに対するヒアルロン酸注入治療は非常にポピュラーになってきました。当院でも毎日多数の注入治療をおこなっています。
しかしながらこの美容医療業界全体で見ると、やや人工的な顔貌、いわゆるヒアル顔を呈する人も増えてきました。大量注入で、加齢による骨の萎縮を埋め、顔を支える靭帯をリフトアップする手法が開発され、以前よりも不自然さは減りましたが、何か違和感がある、そんな顔貌が見受けられます。知らない人が見たら何も問題ないけど、昔の顔を知っている人が見ると若くはなっていない、イメージが変わった印象、そんな人まで含めるとかなりの人がやや違和感を生じています。
これはなぜでしょうか。
骨の萎縮は近年加齢によって進むことが解明され、どこが窪んでいくのかは多くの美容ドクターが理解しています。そこを埋めつつ、またリフトアップもすれば、輪郭は若い頃のように整うはずです。そうセミナーでは習う医師も多いはずです。
しかしながらここには幾つかの盲点があります。
一つはよく知られたことですが、firmnessやfitnessの低下です。まずfirmness。皮膚は緩んでしまっており、これを引き締める必要があります。注入だけに頼ると、どんなに引き上げたとしてもぷよぷよした印象になります。特に高齢者ほど顕著です。これを防ぐには引き締め、つまりは機器治療が必須です。注入でECM(細胞外基質)を補充するのも良いですが、引き締めには至らないので少々力が落ちます。やはり皮膚を引き締める機器が最も良いと思います。先日のIMCAS Asia国際学会でも、私はソフウェーブの講演で強調しましたが、他のドクターも同じような話をされていました。
そしてfitness。皮膚や皮下脂肪は加齢とともにピタッと密着するようなフィット感がなくなります。ボディでも背中の肉のはみ出しで分かると思いますが、垂れるわけでもなく緩みます。これを改善しないと入れた注入剤が何ともゆるっとした感じになりますし、ボリュームでフィットさせようとするとパンパンになります。若い人は肌にハリがあるというより脂肪にハリがあるのです。これは加齢に伴い皮膚支帯retinacular cutisという支持靭帯の末梢、皮下脂肪の細かい線維の減少と緩みが生じて起こることが様々な研究で分かっています。これは糸(スレッド)、特にショートタイプを入れたり、機器のうち皮下に熱を与えるものを用いることで改善を図ります。サーマクールが最強で、デンシティやハイフでも効果が得られます。
そしてもう一つ、どうやっても改善できないのが、骨の萎縮による目、鼻、口などのポジションの移動です。いくら輪郭を埋めても位置は戻せません。下手に輪郭を整えると外と正面がグラマラスな感じになり、目鼻が寄ったような印象を与えることもあります。これの改善はできないので、医師の美的センス、バランス感覚で誤魔化していくことになります。ここで解剖学的知識が最も重要になります。あれ?何か変、というのはこういった誤魔化しができないことが原因だと思います。特に私個人としては窪みやラインを敢えて全て若い頃に戻さず、微妙な引き算をしてあげる事が大事だと思います。
ヒアルロン酸注入は良い治療ですが、大量投与だけに頼らず、時には引き算で、そして必ず機器治療を忘れずに組み合わせていく、こんな知識とセンスと経験が美容医療の醍醐味ではないでしょうか。