変な、感じ。
例えるなら、水中………だろうか。
何かの中に居るような。
何も見えない。
けど、音が聞こえる。
音………声?
男の人のような。
女の人のような。
よく知っているような。
全然知らないような。
少し息が苦しい気がする。
全体的に重い気もする。身体が。
あれ。
俺。
どうしたんだっけ。
そんなことを考えている間に、考えていることもできなくなって………。
「………?」
「しょーちゃん‼︎」
「………ま、さき?」
「しょーちゃん‼︎しょーちゃん‼︎しょーちゃんしょーちゃんしょおおおおおちゃあああああんっ………」
「え?………え?」
目を開けたら雅紀が居た。
あれ、俺いつの間に寝てた?
って思う間もなく、雅紀が泣き出した。
しかも号泣。大号泣。
え?え?ってパルプンテのパルパル。
しかもどうした?って起き上がってハグをしたいのに身体が動かない。
っていうかここどこ。
俺の手を握ってしょーちゃんしょーちゃん泣く雅紀に、説明を求めるのは諦めて、俺はキョロキョロと目だけで辺りを見渡した。
ソイ御殿ではない。
っていうかどう見てもここは病院だ。
何やら俺に酸素マスクと点滴なんぞがつながっているようだ。
何で病院?って思い出そうとして。
「………っ」
俺。
待って、俺。
確かオレンジくんに。
「雅紀、ごめん。ひとつ確認なんだけど………俺って今、どんな状態?」
首が絞められているみたいに息苦しい。
口がうまくまわらないし、声が出し辛い。
っていうか。
俺、シんだ気がするんだけど。
ゲリラ豪雨だった。
オレンジくんが居るビニールハウスに居た。
そこで俺は、オレンジくんに襲われて。
動かない身体。
首………絞められてた、よな?俺。いや、首だけではないけども。
で、聞いた気がするんだけど。ぼきぃって、何かが折れる音。
多分だけど、それは夢で繰り返し見ていた、聞いていた、首の骨が折れる音、で。
「しょーちゃん、オレンジくんにコロされてた」
「………」
「しょーちゃん、車はあるのにどこにも居なくて、メッセージ送っても電話かけても全然繋がらないから、もしかしてってハウスに行ったら、オレンジくんにコロされてて」
「………え、待って。俺………シんだ?え、今目の前に居るのって、雅紀じゃないの?天使?」
「シんでない。生きてる。っていうか天使って何?しょーちゃん頭ぶつけたの?オレだよ。雅紀じゃん」
「シんでない………生きてる………?」
「うん。大丈夫、生きてる」
「よ、良かった………」
「ハウス行ったらしょーちゃん、オレンジくんに逆さまに吊るされてて、枝でぐるぐる巻きで、首絞められてて………だから、念のために持ってった斧でオレンジくん切ってたら、急にオレンジくん枯れちゃって、しょーちゃん落ちた」
「斧って………枯れたって………」
「何か割れた音がしたと思う。そしたら枯れた」
「………あ」
割れた音。
それはきっと、俺がポケットに入れていたケンキポーターだ。
かいよう病だけでなく、柑橘類が罹りやすい色んな病気の原因菌が入っていたやつ。色んなポケットに突っ込んでたやつ。
それが落ちて割れて、菌がばら撒かれて、それで枯れた?
………え、枯れたの?そんな一瞬で?
「しょーちゃんが落ちる前、ぼきってすごい音したし、呼んでも呼んでも白目になっててよだれ垂れててぐったりして動かないから、絶対シんじゃったって」
「………え」
「風間ぽん呼んで、あの山救急車入れないからヘリ呼んでここ来て手術したんだよ」
「ヘリ?え、手術?」
「ヘリ。手術。しょーちゃん首の骨折れてる」
「え………く、首の骨が?」
「肋骨も折れてて、あとお腹を圧迫されたからどこかが何とかって」
「肋骨………?どこかが何とか………?」
「難しくて分かんなかった。とにかく大怪我で、けど、大丈夫なんだって」
「だ、大丈夫、とは?」
「麻痺とか残らないって」
「え」
「ちゃんと元通りになるって」
「まじか」
「良かったあああああ」
良かったよおおおおお、しょおちゃあああああん………。
その後しばらく雅紀は泣き続け、身動きが取れない俺は、そんな雅紀をベッドの上からただただ見ているしかできなかった。
それにしても。
首の骨が折れて、なのに生きているし麻痺も残らないとか。
ケンキポーターをポケットに入れておいたのが僥倖だったのか。
もしそれがなかったら。
………オレンジくん。
こわかったし痛かった。
一歩間違えたら俺は本当にシんでいた。
けど。
何か、分かり合える道はなかったのか。
胸の奥が、ぎゅっと何だか、痛かった。