オレンジくんはもしかしたら、思う通りに素早く枝をコントロールすることができないのかもしれない。
と思ったのは、枝で俺を締めるスピードが遅く、さらにすべての枝が一斉には締まっていかないから。
いや、締められてはいる。
痛い。血管が圧迫されているのだって分かる。このままじゃやばいことも。
でも、ゆっくりだった。ミリ単位的な。じりじり的な。
そして1箇所が締まるとその他の箇所が止まった。
腕が締まるとその他が止まり、首が絞まるとその他が止まり、身体が締まるとその他が止まり、みたいな。
ビンタや鞭打ちのように繰り返される枝での攻撃も、必ずしも一定の箇所、顔だけには来なかった。身体だったり、腕だったり。
顔を狙いたいのか?という疑念はある。主に上の方に来るから。
ってことは、恐らく雅紀が俺の顔が好きってことをちゃんと理解しているということで、でも俺の言葉は届かない。
………嫌いなやつの言葉は聞かない主義か。
ギリギリ………ギリッ………
コントロールが下手かもと気づいて、パニックは少しおさまった。ほんの少し。
けど、やばいことには変わりない。
締められていることには変わりない。
ただ。
それなら、雅紀が間に合うかもしれないという希望。
刺激して激昂させるより、おとなしくしていた方がきっといい。
目をきつく閉じてなるべく顔を伏せて、枝が目に、瞼にあたらないようにだけして、耐える。
まるで拷問。
だけど、命にはかえられない。
だから耐える。雅紀が来る時まで。
ギリギリギリギリギリッ………
「………っ」
お腹辺りの枝が一気に締まって、一気に吸い込む酸素量が減った。
呼吸が浅く浅く浅く浅くなる。
そうかと思えば両足がぎゅっと締まって、締まったかと思った瞬間。
「なっ………」
ぐんって引き上げられた。
そのまま吊り上げられた。足を。
吊り下げられた。俺が。
天地の逆転。逆さま。
「くっ………」
思わず出る声。
これはツラい。
頭に血がのぼっていく。
その間にもひゅんって音がして、身体に枝があたる。
逆さまになったおかげで、顔への直撃はなくなったが、その分パオンにあたりそうでヒヤッとする。
万が一パオンに枝の一撃が入ったら、再起不能になりそうで恐ろしい。
それだけは勘弁してくれ。
俺のパオンは雅紀と致すことを夢見ているのだ。再起不能になんかなったら。
雅紀。
また目をぎゅっと閉じる。声には出さず名前を呼ぶ。
こわい。まじでこわい。まじでシにそう。コロされそう。
いやでも、雅紀は来る。きっと来る。絶対来る。
来て、これを、この状況を見て、雅紀は。
雅紀は、俺を選んでくれる。
オレンジくんより。
それを俺は、喜んでいいのか。悲しんだらいいのか。
ギリッ………
「………っ‼︎」
首。
首が、絞まった。首をぎゅっと絞められた。
今までで一番強い力で。
息。
息、が。
来ない。酸素が来ない。まったく。
しかも狙ったかのように葉っぱが、棘棘しい葉っぱが俺の鼻と酸素を求めてぱくぱくしていた口を塞いだ。
「んんっ………‼︎んんんんんっ………‼︎」
やばい。
完全に夢の再現。これは、本当に。
息。
吸えない。苦しい。酸素。
ギリギリギリギリ………
ギリギリギリギリ………
さら絞まる。絞められる。首。
枝が肌に食い込む。
まるで『ここだ』って、分かったみたいに。一気に。
こんなコントロールならまだ大丈夫かも?なんて甘く見たさっきの俺を、俺は殴ってやりたかった。そう思っていた俺がバカだった。
希望が消えた。一瞬で。絶望。目の前に広がる死。
雅紀。
雅紀雅紀雅紀雅紀。
シぬ。
コロされる。
これは現実。まじだ。
雅紀の大事なオレンジくんに、俺は。
「しょーちゃん‼︎」
そこに聞こえた気がした、雅紀の声。
苦しい。
雅紀の姿が見たくて、必死にうっすら開けた目に飛び込んで来たのは、多分、雅紀。ぼやけている。はっきり見えない。何で。見たいのに。雅紀。
雅紀。
ごめん。
俺。
ミシッ………
朦朧とする意識の中で、何かが軋む音が聞こえた気がした。
そして。
「しょーちゃん‼︎しょーちゃん‼︎しょーちゃん‼︎しょーちゃんを離せ‼︎離して‼︎しょーちゃんがシんじゃう‼︎」
雅紀の悲鳴のような声。
ガツッガツッって何かを殴るような、叩くような音。
雅紀。
雅紀雅紀雅紀雅紀雅紀。
痛いのか苦しいのかももう分からない中、雅紀の悲鳴みたいな声と一緒に最後、俺が聞いたのは。
ぼきぃっ………
今まで聞いたこともないような、太い何かが折れる音だった。