花 263 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

「つ………着いた………」





その後は何とか、何事もなく到着した。リーフシードに。ソイ御殿に。それが目の前にある所に。





恐怖のあまりぐったりだ。


ただ山を登って来るだけでぐったりだ。





早く。





早く雅紀に癒されたい。


雅紀の顔を見て、しょーちゃんって呼んでもらって、お疲れさまってハグしてもらいたい。





情けなかろうが思考が乙女だろうが何だろうか、俺の全部が雅紀を求めている。


雅紀がくれる愛情を、癒しを心の底から求めている。





もはや渇望。





ゲームじゃないが、俺のHPが減りすぎて少なすぎて赤表示になっている。絶対そう。


回復には雅紀。雅紀が俺の、最強の回復薬。ポーション。





はあああああって超絶大きく息を吐いて、ああいかんいかんって、ハンドルに突っ伏していた身体を起こした。





早くせねば、空が落っこちそうだ。


厚い厚い、なのにめちゃくちゃなスピードで流れていく雲が、届くのではないかというぐらいすぐそこにある。


もはや一刻の猶予もない。





来る〜。


きっと来る〜。


雨が雷が嵐が〜。





ああでも、とりあえずリーフシードではなくソイ御殿に戻って風呂の準備でもした方がいいのかもとか思う。


雅紀がびしょ濡れになる可能性大だ。今から絶対天気は荒れるのだから。





少しどこかで時間を潰せばゲリラだから濡れずに済むはずなのに、雅紀は絶対、絶対絶対大荒れの中だって帰って来てくれるって思うんだよ。俺のために。


むしろ大荒れだからこそ帰って来てくれる。危なくても。俺のために。





全ては俺のために。





ってことで風呂準備風呂準備。





例えびしょ濡れになっていなくても、一緒にまったり風呂入ってこの疲れを取りたい。まじで。癒されたい。本気でもうげっそりだ。





ってことは横山さんは呼ばない方がいいのか………。


俺の体力回復に雅紀とべったりは必須だもんな。


横山さんが居たらできないもんな。





そうそう。ハウスに行くのはやばいだろうが、ソイ御殿に居ればきっと大丈夫。


そうだ。きっとそうに違いない。


だから大人しくひとりで雅紀を待とう。


ああでも今日は風間さんも一緒か………。え、じゃあ呼ぶ?横山さん。





うーーーーーん。





急がないと雨が降ると分かってはいるのだが、疲労と思考でのたのたしていた。





脱いでいたジャケットを着て降りて、まず運転席の下に入り込んだケンキポーターの無事を確認してほっとして、助手席側に回って同じようにシートの下に入り込んだケンキポーターを拾った。





その間にも雷は鳴り、風は強く吹いた。





強風でドアが飛びそうなぐらいの勢いで開いてしまうため、片手でドアを押さえつつ、拾ったケンキポーターの無事を確認し胸ポケットへ、確認しケンキポーター同士の接触を避け違うポケットへと入れた。ドアを持っているため、検体輸送バッグに微妙に手が届かなくて。





ちなみに車の屋根にはカラスのフンのようなものが見えた。





そうか、何か落ちて来たと思ったのはカラスのフンか。





ふーーーーーん。





カラスのやつめ。


あんなにも俺をビビらせやがって。


フンだと?そんなのビビり損じゃないか。くそう。ちくしょう。





何か悔しい。





落ちていたケンキポーターは全部で6本。


両手が忙しくて、胸ポケット、両ポケット、内ポケット、ズボンのケツポケットへと入れた。





よし、これでソイ御殿に戻ってバッグ内をキレイに整えたら、ばら撒いた証拠ZERO〜だ。隠滅だ隠滅。





と、立ち上がったその時である。





「しょーちゃん、来て‼︎」





ハウスの方から聞こえた、雅紀の声。


しかもめちゃくちゃ焦った声。


切羽詰まった声。


悲鳴にも、似た。





「オレンジくんが大変なんだ‼︎早く‼︎」
「え、え?ちょっ………」





声がしてすぐ強風に煽られ、またしてもドアがばーんと開いたのに気を取られたため、雅紀の姿は見えなかったが、帰っていたんだという喜びと安心感、プラスオレンジくんが大変という想定外でヤバげな事案勃発に、ポケットにケンキポーターを入れたまま、おーい待ってくれとハウスに走った。





走って俺がハウスに飛び込んだ瞬間、カッと辺りが稲光に包まれ、ほぼ同時にものすごい音が響いた。





「のわっ………」





落ちた。





しかも近い。





そしてそれに続く、雨。





雨は大粒でパタパタっと数回ハウスを鳴らした後、一気に降り始めた。ものすごい音を立てて。





まさにゲリラ。





俺、今めちゃくちゃ間一髪だったな。


奇跡の回避だ。





「しょーちゃん、お願い早く来て‼︎」





大音量の雨と雷の音をすり抜けて聞こえたのは、やっぱり切羽詰まった雅紀の声。





そこまでってまさか、かいよう病?


それともオレンジくんの容体急変?





「雅紀‼︎どうした⁉︎」





俺はさっきまでの恐怖心も疲れも全部吹っ飛ばして、雅紀いいいいい‼︎と、ハウスの奥へとダッシュした。