花 256 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

やばい。





そう思った。普通に。





聞かれた。





そう思った。普通に。





雅紀とはずっと、オレンジくんの話はスマホでしかしないようにしていたのに。





いや。


違う。油断した。してしまったんだ。油断を。





ソイ御殿を出る時に確認したから。


ソイ御殿を出た後も、車の乗り降りする時も、何回も何回も何回も何回も、葉っぱがどこかについていないか確認して。





だから大丈夫だろうと。





なのに。





ドッドッドッドッドッ………


ドッドッドッドッドッ………





心臓が、痛いぐらい早く脈打っている。


汗がやばい。


息もやばい。





恐怖で。


俺が。





………やばい。





「一昨日だっけか?お前来たの」





俺と森田さんの間に落ちた葉っぱを、立ったままだけどじっと見下ろす森田さんが声をひそめて言った。





「………一昨日、ですね」
「こいつ、一昨日よりちょっと変わってね?」
「………え?」





葉っぱが?


変わっている?





葉っぱイコールオレンジくんの何かイコール盗聴器という認識が俺の中でできあがってしまっているだけに、今すぐにでもどこかに捨てて来て欲しいというのが本音ではあるのだが、葉っぱに変化が、異常があるのなら雅紀に知らせなければならない。





おそるおそる俺も見た。葉っぱを。





見て思う。





オレンジの葉とは、絶対にこんな形ではない、と。





ごく普通のオレンジの葉は、小さい子でも葉っぱと聞いて普通に描くような、ごく普通の形をしている。





なのに今現在のオレンジくんの葉っぱは違う。普通の形から大きく違って来ている。





今のオレンジくんの葉は、まるでヒイラギの葉。





棘棘しい。


触れたら刺さるほどに。





ヒイラギの葉というのは、実は一本の木にいかにもヒイラギと言えば、な、刺刺しい葉もあれば、つるんと丸いごく普通の葉もあったりするそうだ。


棘棘しくなるのは、捕食から身を守るためなのだとか。





雅紀はオレンジくんを作るとき、オジギソウの動きを元にしたと言っていた。


オジギソウの動きのメカニズムをオレンジくんに応用したのだと。





それ以外は聞いていない。


ましてやヒイラギの、捕食から身を守るために葉を尖らせるメカニズムを応用したとは。





だから自力なのだ。葉を尖らせたことは、完全に、オレンジくんの。





だからおそろしい。





もちろん、ヒイラギにそれができるのなら、他の植物にも可能なのかもしれない。可能性はあるだろう。


でもそれは本来なら長い時間をかけた進化の過程、結果、なるのであって、ハウス育ち………つまり箱入り坊ちゃん的なオレンジくんに何故そんなことが可能なのか。





こわい。





恐怖だろ。





この短期間に、オレンジくんだけの力で葉の形を変化させる進化をしたオレンジくんが、俺はもう、ただただこわいとしか。





「こいつ、さっきの写真より青っぽくね?」
「………え?」
「形もね。少し丸っこくなってる気がする」
「………え?」





森田さんだけじゃなく、大野さんまでそんなことを。





………え?


俺には全然、同じように見えるんだけど。





どうにも信じられなくて、俺はスマホの写真と落ちている葉っぱを見比べた。





画面には、黒く、赤く、棘棘しい、凶悪な雰囲気を醸すオレンジくんの葉。





そして床には。





「え………ち、違います?これ」
「ちげぇだろ‼︎よく見ろよ、お前‼︎」
「見てますよ‼︎見てるけど分かんないですって‼︎」





まじで‼︎ちょっとまじで‼︎どこが違うんだよ⁉︎何が違うんだよ⁉︎


俺にはほぼ同じように見えるんだよ‼︎





「こいつを直で持ってくのは危ないから、相葉に見せるなら、写真撮って見せるのが一番いいだろ」
「あ………そうですね。そうします」





森田さんに言われて写真は撮ったけれども、俺にはやっぱり、どこがどういうふうに変わったのかが………。





うん。分からない。


そして、分かりたくない。


こわくてそんなにじっと見ていられない。





どちらにしても、どちらにしても、だろ。





とは言っても、だ。





カシャリ





俺はもう一度、少し離れたところからおそるおそる、オレンジくんの写真をとった。


さっきよりズームして撮った。





っていうか、俺には微塵も分からない微妙な変化が分かるって、このふたりは一体。





「大野、頼む。こいつ捨てて来てくれ」
「えー?何でおれ?森田さん行きなよ」
「やだよ‼︎俺が行けるわけねぇだろ‼︎」
「それ威張って言うこと?」
「威張ってねぇよ‼︎」
「威張ってるじゃん」





ぶつぶつぶつぶつ。





言いながらも、大野さんが捨てて来てくれた。


いかにもイヤなものをつまむようにつまんで。





「ありがとうございます‼︎すみません‼︎」





イヤイヤながらもやってくれた大野さんは、神だと思った。