俺は助手席で傷口からとめどなく出てくる汁をティッシュで拭きながら、雅紀運転でコンビニに行き、ひとりで待っていられる?って俺に確認してから雅紀は飲み物を買って来てくれた。
「しょーちゃんはコレもね」
そしてお茶と一緒に渡されたのは、このコンビニオリジナルのロールケーキ。
前にパワハラ元上司の一件で夜に緊急招集令がくだった時、風間さんが買って来てくれたのと同じ。
「こういう時こそ甘いものを食べないと」
って言う雅紀の手には、フィナンシェ。
ペリペリっと外装を外して、ご満悦顔でもきゅもきゅ。
もきゅもきゅもきゅもきゅ。
これな。
まじこれな。
こういうとこな。
俺のピンチに颯爽と駆けつけ現れて、俺を色々気遣ってくれて、俺の好きなロールケーキまで買って来てくれちゃうなんて、めちゃくちゃ男前なことをさらっとやってくれるのに、大好物のフィナンシェをもきゅもきゅって。
「良かった」
「ん?何が?」
「雅紀がフィナンシェ食べられて」
「え?」
「え、さっき言ってたよね?俺が雅紀見て悲鳴をあげたのがショック過ぎてフィナンシェも食べられないって」
「………あ」
「忘れてた?」
「うん。忘れてた」
だからこれな。
まじでこれな。
こういうとこな。
まじこういうところがまじで好き。まじめちゃくちゃ好き。
「しょーちゃんも食べなよ」
「ん。いただきます」
もきゅもきゅっと全部食べ終えた雅紀に促されて、俺はいただきますって手を合わせた。
ロールケーキを食べ終えて、お茶をごくごくっと飲んで、垂れえる傷の汁を拭いて、ふうって大きく息を吐いた。
雅紀はそんな俺を見て、ちょっとは落ち着いた?って。
「うん。ごめん。ありがとう。だいぶ落ち着いた」
それはロールケーキとお茶ってよりも、雅紀の存在がデカい。
雅紀が居てくれる。それが。
だからこそ、さっきの雅紀からの死んじゃえって言葉は。
………あれは一体何だったんだろう。
俺の記憶はあの後からない。
あの後雅紀の後ろにオレンジくんを見て終わっている。
城島教授のところで目が覚める直前に首の骨が折れる音を聞いた気はするけど、絞められたところなどは、はっきりと覚えていない。
「しょーちゃん?」
雅紀を見つめたまま黙る俺に、俺を呼ぶ心配そうな雅紀の声。
話そう。
さすがに話さなければ。
………けど。
オレンジくんの葉っぱを、あそこまで森田さんが警戒していたことが、すごく気になる。すごくすごく。
俺はゴソゴソとズボンのポケットからスマホを取り出して、スマホのメモ機能で雅紀に伝えることにした。