花 215 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

やっぱり何かおかしいって、昨日の朝、いつも通りのオレンジくんお伺いのときに雅紀が言った。


ただ、言った本人も何となくそう思うだけで、どこがどうおかしいとはっきり分かっているわけはないようだった。


でも、はっきり分からなくても何かはおかしいらしく、昨日からオレンジくんお伺いの回数と時間が大幅に増えて伸びた。





昨日は俺も一緒に行っていたのだが、何度行っても俺には全然分からなかったから、そこはさすが、育ての親なのだろう。





心当たりは何もない。





そもそもオレンジくんは自分の世話ができる。


水も肥料も必要なときに必要なだけ自分で摂取してくれる。


だから与えすぎ、与えなさすぎはないのだ。


ハウス内だから気温などの変化は関係ないし、害虫の心配もない。


昨日見たときは、実にも葉にも樹にも枝にもこれといった病気の兆候もなかった。





ということは、根の方からの異常なのか?





「櫻井さん」
「………」
「櫻井さん?」
「はっ…はいっ………」





カタカタカタカタカタカタ………





オレンジくんのことをうんうん考えていたら、超高速タイピングをしながら、風間さんが俺を呼んでいた。





「もうすぐ昼なので、まーくんをご飯に連れて行ってもらっていいですか?」
「………え?雅紀をご飯に?ええ、それは構わないですが、今日はここで食べないんですか?」
「ここで食べてもいいんですけど、まーくんに気分転換が必要かなと」
「………なるほど」
「帰りは何時でもいいので、ちょっと連れ出してやってください」
「分かりました。うまく気分転換してもらえるかは分からないですが、頑張ってみます」
「お願いします」





こういうところが、さすがと言うか何と言うか。





昨日から頻繁にハウスと事務所を行ったり来たり、こもったりしている雅紀を、心配してのことなのだろう。


多分風間さんは、雅紀が風間さんにもスーパー作業員である横山さんにも何も言わないことから、立ち入り禁止エリアで何か問題が起こっていると分かっているのだ。


だから雅紀に直接どうしたの?とは聞かず、集中し始めるとそれだけになって、その他の色んなことを忘れがちな雅紀のために一旦、少しでもそこから離れることをすすめてくれているのだ。





視野が狭くなると、普段なら分かることも分からなくなるもんな。





キリのいいところまで納品書をファイルして、俺はハウスに雅紀を迎えに行った。





「雅紀〜、そろそろご飯にしよ〜」





宇宙人くんが闊歩していないかの確認はまだするけど(あれは見るだけで普通にこわい)カラスも減ったし、オレンジくんはただのオレンジの木だと判明したしで、俺は最近ひとりでハウスに来ることができるのである。


俺としては大きな進歩だ。





まあ、それでもちょっとはこわいからひとりだと早歩きだけども。


雅紀は集中していると何も聞こえていないと分かっていても、敢えて呼びながらだけども。





「雅紀〜。まるやまパン行くか〜?」





オレンジくんがいるところへ続くビニールの仕切りをふぁさっと開けて覗くと、実に病気の兆候がないかと熱心に見ている雅紀がいた。





うっ………。





うねうねと動くオレンジくんを直で見ると、やはり悪夢がよみがえる。恐怖と共に。





でもこればかりは仕方ない。





夢とは言え散々コロされたんだ。こわくて当たり前だ。


ご飯を食べたらう◯こなんだ。





自分で自分を納得させつつ、やっぱりまったく俺に気づいていない雅紀に、おーいって呼びかけながら近づこうとしたとき。





「のわっ………」





ずしゃっ………





こけた。転んだ。





びっくりするほどなかなか見事に、俺は何かに足を取られて地面とお友だちになった。





ここまで完璧に転ぶなんて、どんだけ振りだ、俺。


っていうか何があった?


何に引っかかった?


完全に持って行かれた。足を。瞬間接着剤でも地面についていたか?というぐらい完全に。





「しょーちゃん⁉︎どうしたの⁉︎」





見事に転んだ俺に気づいてくれた雅紀が、こっちに駆け寄って来てくれる。





「引っかかっただけ。大丈夫」
「引っかかった?」
「うん。何かに足を持って行かれて………」
「何か?」





不思議そうな雅紀の声に、地面を見ると。





そこにはただただ、真っ平な地面があるだけだった。










今週も米よろしくお願いします🌾