花 204 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

結局、動物園内の飲食店はどこも激混み、動物園を出てからのオシャレ系飲食店からカフェ、喫茶店、ファミレスぐらいまではどこを見ても激混みで、俺たちが辿り着いたのは年季の入ったラーメン屋だった。


ラーメン屋の店主には申し訳ないが、せっかくの誕生日なのにごめんって言ったら、雅紀はオレラーメン好きだよ?って首を傾げてきょとん。





もう、まじ天使。


本当お天使。





もしこれが昔付き合っていた彼女だったら、きっとこれがきっかけでケンカになって、せっかくのデートが、誕生日が、クリスマスイブが、お泊まりが台無しになっていたことだろう。





そこは男女の違いなのかもだけれど。


あと、付き合っているか否かの違いとか。





令和の時代に平成通りこして昭和なかほりが漂うラーメン屋で、雅紀は味噌ラーメン、俺は醤油ラーメンで、交換なんかもしつつ堪能した。


ラーメンは、どっちのラーメンも想像以上においしかった。


それは出るときにはまた来ようねなんて言ったほどで、結果オーライであった。





………ここだけの話、雅紀が味噌ラーメンを『お味噌ラーメン』って言っていたのがツボすぎて、『お味噌ラーメン』って聞こえるたびに俺は密かに悶絶していた。










「ル◯バくん、ただいまー。今日はどこー?」
「え、だから何で遭難してることが前提なんだろ」
「え?だって絶対遭難してるでしょ?」





素朴な疑問にさくっと言われてくすんとなりつつ、両手にぶら下げたケータリングの品々を持って雅紀の後ろからうちに入った。


雅紀は片手にキリンとリス、片手にスーパーで買った飲み物が入ったビニール袋をぶら下げて、きょろきょろとル◯バくんを探している。


これは疑いようもなく、ガチでル◯バくんが遭難している前提だ。





「あ、いたいた。ちょっと待っててねー。すぐ助けてあげるから」





そしてル◯バくんはやはり当然のように遭難していて、雅紀の手によって無事救出された。





おかしいな。ちゃんと片付けたはずなのに。





いつか雅紀が来ても遭難していない日を是非とも作りたいものだ。










「改めまして、誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」





ラーメンを食べた時間が遅かったため、先にプレゼントを渡してしまおうと、俺はベッドの上に置いておいたプレゼントの数々をせっせとリビングに運んだ。


そして雅紀の前に正座をしておめでとうを伝えた。


雅紀も同じように正座をしてくれている。





はたから見たら何なのこの図、である。





でも動物園ではしゅんだった雅紀の表情も、ずらずら並ぶ袋や箱の前にキラキラしている。





だからいいのである。





「これ、全部オレになの?」
「そうだよ。全部雅紀に」
「すっごいいっぱいあるけど」
「うん。雅紀が何欲しいか想像もつかなくて、いいなって思ったやつを片っ端から買ってみた」
「こんな雑誌まで見て?」
「あ」





こんな雑誌、と、雅紀が手にしたのは。





しまったーーーーー‼︎


くっそ、処分し忘れてたーーーーー‼︎





な、『彼氏にあげたいクリスマスプレゼント特集』と表紙にどどんと書かれた若い女性向けの雑誌である。





「あああああっ………そ、それはっ………」






恥ずかしい。


ちょっと、いや、かなり恥ずかしいんだけど‼︎


やっちまったな‼︎俺‼︎何たる失態‼︎もうバカ‼︎バカバカバカバカ‼︎





でもさでもさ‼︎だって俺雅紀よりだいぶ年上だし‼︎


最近の子はどんなのがいいのか、どういったものが流行っているのかなんてさっぱりだから‼︎


欲しいのが分からないならせめて今どきのものって‼︎思って‼︎


ちょっと前にこっそり買って、こっそり持ち歩いていて、雅紀が居ない時や雅紀が眠っている時に研究してたんだよ‼︎





あああああって、絵に描いたように慌てふためく俺を見て、雅紀が笑う。柔らかく笑う。くふふふって、笑う。





俺の好きな笑い声だ。





「彼氏にあげたいって、オレ、しょーちゃんの彼氏なんだ?」
「………っ」





いや、だからそれはっ………。





言い訳をしようとした。


キスはしていても、キスだけの関係。


俺は雅紀のことが好きだけど、はっきり好きだとは言っていないし、雅紀が俺をどう思っているかも分からないし。





なのに。





なのに、雑誌を眺める雅紀が、やけに、さっきキリンやリスを買った時より、断然嬉しそうで。





「えっとまずコレから………ど、どうぞ」





俺はどきどきを隠すみたいに、一番近くにあった紙袋を、はいって渡した。










米ください…🌾