冬らしく澄んだ空気の、夕闇時刻。
西に太陽は落ち、まだ茜色が残る空も、もう間もなく完全なる藍へとなるだろう。
カアアアアアッ………
カアアアアアッ………
そんな美しき空の下、響くカラスの声。
遠く向こうの八方から、カラスは飛んでくる。
この山のネグラに向かって。
「しょーちゃん、うち入ってていいよ?」
「いや、中でひとりのがこわいし、俺も見たい」
太陽が沈むと、いくら暖冬とはいえ寒い。まじで寒い。めちゃくちゃ寒い。
なのに何故俺たちが外に居るかと言うと。
「そろそろやりますかー」
今日は鷹匠による、カラスよテンゲン山から出て行け作戦の初日だからである。
横山さんの友だち、安田デザイン事務所の安田さんは、この辺りでは多分珍しいマタギである。狩りをする人。
この山に住んでいるらしいクマは、安田さんとその友だちのマタギ数人によって定期的に狩られているそうだ。
そんなマタギな安田さんに、横山さんがこの山のカラスのことを相談したら、安田さんはマタギ友だちとはまた別の、鷹匠友だちを連れて来てくれたのである。
ちなみに安田さんたちは『暗くなるとソイ御殿に辿り着けないから』というナゾの理由で、今日の15時頃に来た。
同じようなことをちらちら聞くけど、ずっと思っているけど、『辿り着けない』って何。
俺には今のところその経験はないし、今は雅紀と一緒に移動しているからか、まったくそんな摩訶不思議は起こらないため、まじでナゾである。
………やはり宇宙人とかUFOの関係なのだろうか。
何か磁場的な。いや、適当に言ってるけど。
それっぽくない?それっぽく聞こえない?
ちなみにもちろん、絶対に経験したくない案件だったりする。
まあとりあえずそれは置いておいて、そこで俺は安田さん初めましてだったのだが。
さすが横山さんの友だちと言うべきか………。
安田さんは実に個性的な方であった。
安田さんが来た時、俺たちは横山さんを含めてリーフシード事務所にておやつタイムをしていた。(注:松本さんは相葉パパン社長と仕事である。経理と営業の兼任はとにかく忙しいようだ。俺だって鷹匠見たい‼︎鷹見たい‼︎と暴れていらしゃったが、相葉パパン社長に問答無用で連れて行かれたと横山さんがニヤニヤしながら言っていた)
そこに『よこちょおるー?』と声高くドアをばばんと入って来たのが安田さんであった。
よこちょ?よこちょって何?っていうかこの人誰?
え?え?ってなっていたのは俺だけで、ヤス、はやない?って横山さん。
ヤスくんって雅紀と風間さん。
なるほど、よこちょとは横山さんのことであった。
マタギというからさぞかしガタイのいい人かと思いきや、安田さんはかなり小柄な人であった。
髪が肩より下ほど長く、サングラスをかけ、何とも言えない柄の上着にスカートに見える長いものを履き(大丈夫ズボンも履いてる)、どうも初めましてって挨拶と握手をしたその手の爪には黒いマニキュア。
実に個性的である。
それから一緒に来てくれた鷹匠さんを紹介され、もしコーヒーを飲んでいたら確実に吹き出していただろうというぐらいの衝撃を俺は受けた。
『こちら鷹匠の高橋隆さん』
『鷹匠の高橋隆です。ちなみに鷹はタカと言います。鷹匠だけにタカタカうるさいですがよろしくお願いします。この子は女の子で、夫がいます。夫の名はトシです。今日は留守番してます』
え。
たかはしたかし?
リアルたかはしたかし?
え。
まじで。
まさか本当に高橋隆という名の人に会う日が来ようとは。
思わず謝りたくなった俺であった。
だがしかし。
駄菓子菓子。
本当にいたよ、たかはしたかし。
鷹匠の高橋隆、鷹はタカ。夫はトシ。
鷹匠高橋隆とタカアンドトシ。
シャレか早口言葉か、いや現実だ。
………実に衝撃的である。
安田さんの個性的ファッションやまさかの高橋隆さん登場に驚きつつも、陽が沈みカラスがあちこちからネグラに帰って来たところで。
高橋さんが伸ばした腕に乗る鷹のタカが、高橋さんの指差す方を認識した。
それとほぼ同時に高橋さんはタカを投げるようにして飛ばした。
ピュイーーーーーーーーーー
タカは鳴きながら冬の空を飛び、木々の間からタカに驚いたたくさんのカラスが、一斉に飛んだ。
鷹匠高橋隆登場。
これはプロデューサーのアイデア💡
鷹をタカと名付けたのは私だけど、すかさずつがいをトシにしたのはプロデューサー。
鷹匠高橋隆鷹はタカアンドトシ。
おふざけが過ぎる(笑)
米お待ちしてますます🌾