花 181 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

「うんうん、しょーちゃん。こわかったねぇ」
「………うう」
「よしよし、もう大丈夫だから。泣かない泣かない」
「………うう」
「オレが居るでしょ?」
「………うう」





SHO MOCHI SAKURAI、32才。





ただいま俺は泣いている。


9才も年下の雇い主に抱き締められ、頭を撫でられ、慰められている。





ここはソイ御殿。


リビングの、多分ソファーベッド。





ちなみに俺のこの情けない姿は、風間さんにしっかり見られ、ついでに横山さんにも見られていたりする。





「ねぇ、しょーちゃん。オレ言ったよね?ひとりになっちゃダメだって」





雅紀が俺の肩をつかんでそっと身体を離し、俺の顔を覗き込みながら言う。





一応俺を注意しているのだが、その顔は決して怒ってはいない。


どちらかと言うと穏やかで、眉がちょっと下がってて、しょうがないなあ。的な。





「………うん。ごめん」
「ほら、鼻水拭いて。顔くちゃくちゃじゃん。せっかくのカッコいい顔が台無し」
「………うん。ありがとう。ごめん」





雅紀が渡してくれたティッシュを受け取って、俺はちーんちーんと思いっきり鼻水を拭いた。





子どもか。


俺は小さい子どもか。





………情けない。


実に情けない。





だがしかし。


駄菓子菓子。


ついに見ちゃったよ、たかはしたかしのだがしかし。





雅紀がもぐらっている間、オレンジ収穫用のコンテナぐらい準備しておこうと思った。


それぐらいできるだろうと。それぐらい大丈夫だろうと。軽い気持ちで。





だってオレンジくんが居ない方のハウスだし。


ハウス内に入るわけでもないし。


コンテナを運ぶって言ったって、大して時間もかからないし。





って外に出て納屋に行こうとしたら、上から人形が落ちて来た。


しかも結構スプラッタ状態の人形が。


うわってなってたらカラスに文字通り囲まれた。


そしてじりじりと詰め寄られた。





今、色んなことが重なっているせいで、ついうっかり落ちて来た人形に自分を重ねてしまい、恐怖はそこでマックス。





なのにそこでその時ザッて、地面を踏みしめるような音が聞こえて、思わず反射的に振り返った。


殺(ヤ)られる⁉︎って。





そしたら。





そしたら。だ。





『それ』が大き過ぎて遠近感が謎で、俺からどの程度離れた場所に居たのか正直分からない。


納屋とハウスの間に居た。


納屋の方に向いていた俺が、ハウスの方を振り返ったら居た。





『それ』。





2メートルぐらいは、あっただろうか。大きさが。身長が。全長が。


全身グレーというか、シルバーというか、そんな色をした、二足歩行の、何か。





『それ』を見て、思いっきり叫んだところまでは覚えている。


『それ』がこっちを向いたのも。


目が合ったのも。





でも。





………その後の記憶はキレイさっぱり、ないのである。





気づいたら、雅紀が居た。風間さんが居た。横山さんが居た。


三人が三人とも、俺を心配そうに覗き込んでいた。





何で?って俺に、しょーちゃん、大丈夫?って雅紀が聞いて、何が?って思った。


風間さんに状況を説明されて、そうだって思い出して。





手を見た。





何ともなかった。





頭を触った。





何ともなかった。





顔を触った。





何ともなかった。





身体のあちこちを触った。





けど、どこも、本当に、何一つ。


何とも、なかった。





そしたら、情けないことに涙が出た。泣いた。


雅紀いいいいいって、雅紀にしがみついた。





シんだと思った。


もうダメだと思った。


俺はあの人形みたいになるんだって。


ものすごく瞬間的に。





風間さんと横山さんの前なのに、しがみついた雅紀のぬくもり、においに、生きてたって。生きているって。





俺の涙は、しばらくの間、止まることを忘れた。





………からの、冒頭である。





風間さんの話から推察すると、どうやら俺は、またしても恐怖レベルマックスを振り切って、気を失ったらしい。


俺のとんでもない叫び声を聞いて風間さんが飛び出して、雅紀はもぐらでつかまらないからと、電話で横山さんを呼んで俺をここまで運んでくれて、緊急事態だからって横山さんが地下室のドアを叩きまくって雅紀を呼んだそうだ。





少々嗚咽まじりに何があったのかの説明をした。


俺の説明に、雅紀たちはあーとか、そうかーとか、アイツら………とか。





信じてくれたことが、信じられなかった。


でも、信じてくれたことに、安堵してまた泣いた。





「にいちゃんなあ、その顔でそれは反則やんな。小動物か。ハムスターか」
「………え?」
「ハムスターじゃない?ご飯の食べ方とか。ちょっとだけまーくんの気持ちが分かる気がする。ほんのちょっとだけだけど」
「………え?」
「かわいいよねぇ、しょーちゃんって」
「………え?」





ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、風間さんがいれてくれた熱々のカフェオレを飲んでいたら、注目された上にそんなことを言われ、え、何?何?って。





それを見て笑う雅紀と、苦笑いの風間さん、横山さん。





何だろう。雅紀はともかく、他2名のその苦笑いは。





「あ、松潤から帰還命令や。そろそろ戻るわ」
「きみちゃん、ありがとねー」
「おう」
「松本さんにも言ってあるから、多分怒られないと思うよ」
「そこは風間、絶対て言うてくれ」
「ごめん、保証はできない」
「大丈夫。オレからも言っとくよ」
「頼むでまーくん。あー、ほんでな、にいちゃん。カラスはヤスに相談しとくな。何とかしてくれると思う。んで宇宙人は………まあ、アイツら基本何もして来ぉへんから様子見でええと思う。手紙の犯人はあとちょっとや。絶対捕まえたるで、待っとってな」
「………あ、はい。すみません。ありがとうございます。お願いします」





って去って行く横山さんを見送ったのだが。





え。





今横山さん。


カラスと手紙の間にさらっと宇宙人は………って、言った………よね?





あまりのさらっとさに、思わずさらっと返事をしてしまったが。





え。





宇宙人………って。





え、宇宙人て、そんな扱いでいいの?


っていうか俺が見たあれ、本当に本物の宇宙人なの?


子どもの頃テレビのUFO特集で見た宇宙人とだいぶ違ったけど。主に大きさが。


いくら何もして来ないからと言われても、俺、あんなの普通にこわいんだけど。


次また遭遇したら、絶対また気絶する自信あるけど。





「しょーちゃん、痛いとことかない?」
「………うん。大丈夫」
「良かった」
「………うん。ごめん。ありがとう」
「頭打ってるかもなので、もう少しそのまま休んでて下さいね」
「はい。すみません。ありがとうございます」





雅紀に言われ、風間さんに言われて、おとなしく座ってはいるが。





宇宙人 その扱いは 雑じゃねぇ?





宇宙人なのに、ここの人たちの反応が、対応?が、あまりにも雑で、塩で、思わず一句、詠んでしまった俺であった。










今日はコメディーかい‼︎って思った方は米ください🌾

宇宙人気の毒…って方も、米ください🌾