「………っ」
目が、覚めた。
ドッドッドッドッドッ………
ドッドッドッドッドッ………
心臓がうるさい。
汗もすごい。
けど。
『目が、覚めた』
夢。
夢だった。
今見て聞いて体感したもの全部が。
そう頭が理解したら、めちゃくちゃほっとした。
強張っていた身体から力が抜けた。
息も出た。勝手に吐かれてた。大きく。はあああああって。
見える。
そこは、ここはもう闇ではなかった。
すみの方についている明かりによって見える。
ここは、雅紀の寝室だ。ソイ御殿の。
「しょーちゃん」
不意に聞こえた声に、情け無いことに身体が反応した。ビクって。
それは、単に驚いたから、ではない。
それは大部分が恐怖に占められているビクっだった。
「しょーちゃん?」
訝しげな雅紀の、寝起きの声。
ごそって動く音。
体重移動と共にぎしってベッドの鳴る音。
『シんじゃえ、しょーちゃん』
いつも通りお天使に笑う雅紀から出たのは、残酷な言葉。
『バイバイ』
俺の命なんかゴミ以下のように言って、それを合図にしたみたいにオレンジの枝が俺に巻きついて、まさに文字通り瞬殺。
少しずつ絞めコロされるのもこわいけど、瞬殺も相当だ。
あって思った瞬間だった。全身の骨が折れる音が聞こえたのは。
もう何回目だろうか。
………雅紀とオレンジの木にコロされるのは。
いや、実際手をくだしてるのはオレンジの木だけども。
「ねぇ、しょーちゃん。まだ何かオレに隠してることあるでしょ」
雅紀が呼んでいるのに、一向に雅紀の方を見ない俺に痺れを切らした雅紀が、横向きだった俺の身体を仰向けにした。
そして、俺の頭の両側に手をついて、俺を見下ろした。
雅紀に隠していること。
悪夢に雅紀が加わったことは、言っていない。
オレンジくんが自分の意思で動くことができるかもしれないという疑惑についても。
それだけじゃなくて、オレンジくんが………。
「………ごめん」
「それは話せないことなの?」
落ちる声のトーンに、まだ残る恐怖心を無理矢理おさえて雅紀を見ると、雅紀はお天使なその顔を曇らせていた。
「………ごめん」
そんな顔をさせたいんじゃないよ。
思わず手を伸ばして、そのほっぺたに触れた。
俺の2回目のごめんを、話せないって意味で受け取ったらしい雅紀が、眉間にシワを寄せる。
「………オレじゃ力になれないか」
「違う。そんなことない。俺は雅紀にめちゃくちゃ助けてもらってる」
「でも、言えないことがあるんでしょ?」
「………」
言えないこと。
は、ある。確かに。
オレンジくんのことはまだ言えない。確証がない。
あれは雅紀の研究と努力の結晶だ。農業界の革命だ。嵐を巻き起こす奇跡だ。
だから、疑惑だけで言ってはいけない。
でも、雅紀にこんな顔をさせたいんじゃない。させたくない。
俺は雅紀のほっぺたから手を離して、そのまま雅紀の背中に腕を回して抱き寄せた。
「ずっとオレンジの木の枝に絞めコロされる夢を見てたんだけど………」
「………うん」
「最近そこに、雅紀も出てくるんだ」
「オレ?」
言ってないことの中で、言えることは、それしかなかった。
できればそれも黙っていたかったけど。
「日によってニュアンスは違ったりするけど、雅紀が俺に………要するに、シねってことを言って………」
「え」
「その後オレンジの木にやられるっていうのが、ここ最近の夢でさ」
「オレしょーちゃんにそんなこと言わないよ⁉︎思ってもないよ⁉︎」
「それはもちろん、分かってる。だから、言えなくて」
だからごめんって、重なる雅紀の身体を、ぎゅって抱き締めた。
雅紀もまた、同じようにしてくれる。
知ってるよ。
どんな感情なのかは分からないにしても、現実の雅紀が俺を大事に大切に思ってくれてるってことは。
それは分かってる。
だから、こんな夢を見ることにごめんって思うし、俺だって雅紀を大事に大切に思っているから、例え夢でもめちゃくちゃショックで。
「………何でそんな夢なんだろ」
「………何でだろな」
何故。
理由。
何でだろって言いながらも、俺には理由思い当たる節があった。
雅紀にシねって言われる夢を見るようになった理由は。
おそらく。
オレンジくん、だ。
夢でよかったーーーーー‼︎って方は米ください🌾