名もない話 3 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

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腐女子向けのお話ブログです。

「僕はスカウター」




聞いても頼んでもいないのに、彼は自分から話し出した。





ぱちり。






瞬きした目は瞬きした瞬間に、黒ではなく不思議な色になった。



色だけじゃない。黒目部分全体が不思議に。






不思議っていうか。






気持ち、悪い。見たことのない目。人間じゃないような。






青に見えた。でも青だけじゃなかった。



緑がある。白もある。






そうだ。これはよく知ってる。テレビで見たことがある。これ。この目。眼球。






彼の。



この人の目は。






地球、だった。






コンタクト?






ううん、そんなことはどうでもいい。彼が言ったスカウターってものが何だっていい。夢なら早く覚めて。夢じゃないなら。






夢じゃないなら。






何だって、言うの?






「スカウトしてるんだよ。色んな人を。働いてくれないかなあって」

………間に合ってます」

「まあまあ、そう言わずに。僕の話を聞いてよ。あなたはとても才能があるんだ。力があるって言うのかな?とにかくすごい」






才能。力。






おかしい。あやしい。気持ち悪い。



そう思うのに、その言葉にどきんってなる私が私の中に確かに居た。






専業主婦になって5年。






過去の経歴は過去に流れた。私はただの、夫の妻。夫の家の嫁。娘の母。



職も呼ばれる名前さえ持たない。消えた。どこかへ行った。私は月に三千円しか貰えない、女でもない生き物。妻で嫁で母。






私は。






「ほら、分かる?そのみなぎるパワー。エネルギー」

………






すごいよ。本当にすごい。溢れ出てる。






彼は興奮気味にそう言った。地球の目を輝かせた。






意味が、分からなかった。






「今はとにかく慢性的な人手不足、エネルギー不足だからね、あなたのような人が必要なんだ。だからさっき印をつけた。才能があるよって、そこに」






そこ。






彼は自分のおでこに人差し指を向けて、私のおでこにその人差し指を向けた。






さっき、突かれたところ。






咄嗟におさえた。おでこを。印?何かついてるの?つけたの?






「大丈夫。普通の人には見えない」






こわい。



この人、こわい。



絶対に普通じゃない。






でも、どうしたらいいの。私どうしちゃったの。何でこんなことに。






「あなたの才能、それは………やりたいことをやらずにやりたくないことを自らやり続け、不平不満を口にすること」

………⁉︎

「そこから出る負の、陰のエネルギーっていうのがね。必要なんだよ。この地球(ほし)には」






やりたいことをやらずに。



やりたくないことを。



不平不満。






イヤ。






耳をおさえた。



イヤだ。この人イヤだ。こわい。おかしい。おかしいよ、この人。初対面の私にそんなこと。



何が分かるの?私の何がこの人に。






頭を振った。横に振った。一歩下がった。






イヤ。






イヤイヤイヤイヤ。






耳を塞ぐために手を離した自転車が、ガシャンって大きな音を立てて倒れた。