つんって、私は駐輪場でいきなりおでこに指を突きつけられた。
「………っ」
いきなりでびっくりして、何この人⁉︎ってすぐ前に立つ男の人を見上げた。
何、この人。
年は20代後半ぐらい。
背が高くて、正直かっこよかった。
フードのついた長めのスプリングコート、シャツに細身のパンツはブルー系で統一されている。
髪は明るすぎない茶色。二重まぶたでキレイな形の目。通った鼻筋。厚すぎず薄すぎずな唇。ホクロがどこにもない、キレイな肌。
「あれ?もしかして見えてます?」
………え?
何を言ってるの?この人。もしかして変質者?
関わらない方がいいって、私はぺこって頭を下げて自転車を出そうとした。
でも、出せなかった。
え?
何もない。何も見えない。自転車とそのカッコいい男の人、以外。
暗い。黒い?音もしない。聞こえてこない。車の音、話し声、何も。
しない。
どういうこと?
「良かった、見えてもいいように皮被っといて」
皮?
この人は何を言っているの?
私はどうしちゃったの?これは夢?
心臓がどくどくうるさかった。手や背中、脇に汗が滲んだ。
「やっぱり僕が見えてるんだね」
にっこり。
彼は笑った。
形だけ、唇を弧にした。形『だけ』。
目は笑っていない。だから気持ち悪い。
誰か。
キョロキョロ見渡した。誰か居ないか。
でも、誰も居なかった。
何も見えなかった。
私と彼だけだった。だけになってた。
「そんなこわい顔しないで欲しいなあ」
不思議な声。
高くもなく低くもなく。
抑揚もなくあたたかみもない。
そう。これはきっと夢。夢に違いない。
目が覚めたら家のソファーで、私はきっといつも通りの。
「夢じゃないよ?」
「………っ」
にいぃ。
目の前で笑う。口だけが笑う。にいぃぃい。
こわい。
動くことも、声を出すことも、私にはできなかった。