名もない話 2 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

つんって、私は駐輪場でいきなりおでこに指を突きつけられた。


………っ」






いきなりでびっくりして、何この人⁉︎ってすぐ前に立つ男の人を見上げた。






何、この人。






年は20代後半ぐらい。



背が高くて、正直かっこよかった。






フードのついた長めのスプリングコート、シャツに細身のパンツはブルー系で統一されている。



髪は明るすぎない茶色。二重まぶたでキレイな形の目。通った鼻筋。厚すぎず薄すぎずな唇。ホクロがどこにもない、キレイな肌。






「あれ?もしかして見えてます?」






………え?






何を言ってるの?この人。もしかして変質者?






関わらない方がいいって、私はぺこって頭を下げて自転車を出そうとした。



でも、出せなかった。






え?






何もない。何も見えない。自転車とそのカッコいい男の人、以外。






暗い。黒い?音もしない。聞こえてこない。車の音、話し声、何も。






しない。






どういうこと?






「良かった、見えてもいいように皮被っといて」






皮?



この人は何を言っているの?



私はどうしちゃったの?これは夢?






心臓がどくどくうるさかった。手や背中、脇に汗が滲んだ。






「やっぱり僕が見えてるんだね」






にっこり。






彼は笑った。



形だけ、唇を弧にした。形『だけ』。



目は笑っていない。だから気持ち悪い。






誰か。






キョロキョロ見渡した。誰か居ないか。






でも、誰も居なかった。



何も見えなかった。






私と彼だけだった。だけになってた。






「そんなこわい顔しないで欲しいなあ」






不思議な声。



高くもなく低くもなく。



抑揚もなくあたたかみもない。






そう。これはきっと夢。夢に違いない。



目が覚めたら家のソファーで、私はきっといつも通りの。






「夢じゃないよ?」

………っ」






にいぃ。






目の前で笑う。口だけが笑う。にいぃぃい。






こわい。






動くことも、声を出すことも、私にはできなかった。