Your Eyes 19 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

S side



過換気症候群、ストレス性失声症。


雅紀はそう、医者に言われた、らしい。


雅紀の目が覚めたとマネージャーに呼ばれ、俺は病室に飛び込んだ。


ぼんやりとベッドに横たわっていた雅紀が、俺と目を合わせた瞬間。


あの時みたいに、両手を、見て。


その顔が。
恐怖に、歪んだ。


言葉にならない、かすれた声を洩らして、雅紀は、確かに怯えていた。


ナースコールによって呼ばれた看護士が来て、俺たちは病室の外に出され………そして帰された。


次の日から検査が行われ、マネージャーから聞かされたのが、それ、だった。





過換気症候群だけなら、まだしも。


失声症って、何だよ。


仕事が忙しい上に、雅紀が不安定だからと、病院にも行かせてもらえない。


今回の件で俺と雅紀のことはマネージャーに知られ、社長にも知られることになった。


その社長からは、とにかく雅紀が落ち着くのが最優先だから、連絡も取るなと言われて。


何もできないまま、時間だけが、過ぎる。


「翔ちゃん」


今日はレギュラー番組の収録。
無情にも、それはやってくる。


雅紀は、居ないのに。


肺気胸なんてガセネタを、もっともらしく世間に言って。


智くんが隣に座る。


はいって缶コーヒーをくれる。


「アイドルが台無しだよ」
「うん………」


雅紀が居ない控え室は、驚くほど静かで、冷たい空気に充ちていた。


ニノも松潤も、時間ギリギリまで控え室に来なくなった。


太陽が、居ない。


そう。
太陽が、居ないんだ。


「ねぇ、智くん」
「んー?」
「智くんたちは、こういう問題にぶち当たったりしなかったの?」


ずっと聞いてみたかったことを。
でもこわくて聞けなかったことを。


俺は、聞いてみた。


「んーーーー」


智くんは口を尖らせて、ぽりぽりとこめかみを掻く。


「まあ、なくは、なかった、な」
「例えば?って、聞いていいかな」
「うん。……おれたちは、本当にすぐ一緒に暮らし始めたんだけど、マネージャーに説教くらったし、社長には脅されたし、親にはもちろん反対されたし」
「え」


親に、に、俺が反応したら。


「うちにも、カズんとこにも言いに行ってね」


智くんはそう言って、何かを思い出しているみたいに、息をついた。


「あなたは本当にまあ………すごいわ」


ふふん。って。
智くんがドヤる。


「翔ちゃん」
「うん?」
「翔ちゃんが、一番無くしたくないものは、何?」
「一番、無くしたくないもの?」


そんなの、決まって、いる。


「ピンチはチャンスでしょ」
「え?」
「翔ちゃんの親父さんにもマネージャーにも社長にもバレた。もうさ、こわいもんなんて、ないんじゃない?」


バカだ、俺。


智くんに言われて初めて気づいて。
思わずばっと顔をあげた。


「翔ちゃんは頭固いからなぁ」


んふふふって。
智くんが笑う。


「智くん」
「ん?」
「ありがとう」


んふふふー。


いつも通りの智くんに。
俺は、何日かぶりに笑った。