A side
堕ちた。
真っ黒な、無数の手に、引き摺り込まれて。
オレは確かに。
そこに、堕ちた。
誰かが泣いてる。
誰かが、泣いてるような気がする。
オレを呼んで。
泣いて、いる。
誰?
誰が泣いてる?
どこ居るの?
ねぇ。
しょー…………
「相葉さん。相葉さん?」
「…………?」
夢?
「大丈夫ですか?」
マネージャー?
「ここは病院です。わかりますか?」
病院?
頭が、すごくぼんやりしている。
起きようと思って動いたら、身体のあちこちが痛くて。
頭もガンガンして。
オレは、起き上がるのを諦めた。
「すみません。うなされていたので声をかけてしまいました。ちょっと待っていてください。皆さん今隣の病室に居るので、呼んできます」
マネージャーが立ち上がる。
皆さん?
居る?
何だろう。
ここは病院で。
何でだか、ここに寝かされていて。
何だろう。
何か、忘れている。
苦しかった。
息が吸えなくて。
うまく吸えなくて。
苦しくて。
「雅紀!!」
しょー、ちゃん。
「……………っ」
しょーちゃんが。
すごい勢いで、すごい心配そうに、走ってきて。
思い出す。
「あ……………」
オレは、両手を、見つめた。
「雅紀?」
「相葉さん!?」
手が。
そうだ。
堕ちた。
オレは、堕ちて。
触るなって。
汚いって。
許されないって。
手、が。
嫌だ。
何、これ。
どうして?
何で?
「あ…………」
汚い。
汚い。
触るな。
触るんじゃない。
繰り返し聞こえる、冷たい言葉。
待って。
違うよ。
どうして?
オレ、何かした?
手が。
オレの手が。
「ま、さき?」
苦しい。
息ができない。
待って。
嫌だよ。
こわいよ。
助けて。
しょーちゃん。
「あ……………」
声、が。
声が、出ない。
しょーちゃん。
呼びたいのに。
苦しい。
息ができない。
声が出ない。
何で?
何で?
しょーちゃんを、見る。
みんなも、居る。
何か、言ってる。
苦しい。
堕ちたから?
堕ちたから、なの?
教えて。
オレは。
何で。
オレの手は。
しょーちゃん。
教えて。
何で。
オレの手が。
真っ黒だよ…………