1953年
イギリス
監督:キャロル・リード
出演:ジェームズ・メイスン、クレア・ブルーム
終戦直後のベルリンを舞台にしたスパイサスペンス。
原案はウォルター・エバート、脚本はハリー・カーニッツ。
終戦直後、東西に分断されたベルリン。
西側の難民収容所で働くイギリス軍軍医の兄マーティンを頼って、ロンドンからスザンヌ(クレア・ブルーム)がやってくる。
空港にスザンヌを迎えにきたのはマーティンの妻ベッティーナ(ヒルデガルド・ネフ)。
このベッティーナには得体のしれない少年がつきまとい、また彼女自身の挙動も不審だ。
当時はいわゆる「ベルリンの壁」はなく、東西の検問所はあっても、人々はわりと自由に行き来している。
やがて、かつてベッティーナと何らかの関係があったとおぼしきイーヴォ(ジェームズ・メイスン)が登場する。
スザンヌは東西ベルリンを自由に泳ぎ回る謎めいたイーヴォに惹かれるうちに、スパイ戦に巻き込まれる。
という出だしは「謎」で物語を引っ張るが、緊迫感に耐えきれなくなった(?)ベッティーナは、夫とスザンヌにイーヴォとの関係と彼の正体を洗いざらい暴露してしまう
。
ここまで40分。
しかし映画はこのあとまだ60分もあるのだ。
この後、ベッティーナと間違えられて誘拐されたスザンヌをイーヴォが東ベルリンから救い出す、というサスペンスとアクションが物語の中心となる。
キャロル・リードの演出は例によって斜めに傾ぐカメラアングルなどを駆使してスザンヌとイーヴォの脱出行を盛り上げる。
ビルの建築現場を舞台にしたアクションなどけっこう見せるが、登場人物の彫りが甘く、今ひとつ乗り切れない。
イーヴォは、かつてナチスの精鋭部隊の一員として数々の蛮行に手を染めた過去を持ち、それゆえ戦後の人生に希望を持てないでいる。
ジェームズ・メイスンはイーヴォの負け犬的人物像をとらえてはいる。
一方スザンヌは何のためにベルリンにやって来たのかわからず、見た目完全に小娘の物見遊山。
演じるクレア・ブルームはこの人物をまるでつかめないまま映画は進んでしまう。
したがってこの二人がなぜ惹かれあうのかわからない。
つまり二人が逃げた先にどんな生き方を求めているのかさっぱり想像できないのだ。
今となっては廃墟の残る壁ができる前のベルリンの生々しい空気のみに意義が感じられる作品。