1990年
アメリカ
監督:サミュエル・フラー
出演:クリスティ・マクニコル、ポール・ウィンフィールド、バール・アイヴス
売れない女優ジュリー(クリスティ・マクニコル)は、夜道で白いシェパード犬を轢いてしまう。
治療して、その犬を飼うことにしたジュリーだったが犬にはある秘密があり…。
原作ロマン・ギャリー、脚本サミュエル・フラーとカーティス・ハンソン。
いきなりネタバレしますが、犬は人間、しかも黒人を襲うように調教された攻撃犬です。
奴隷制度があったころからそういう犬がアメリカにはいて、それを「ホワイト・ドッグ」と呼ぶのです。
現代にもそんな犬がいるのは驚きですが、これはそうした事実を通じて、人種差別問題に迫ろうとするサミュエル・フラー監督の野心作です。
さて、ジュリーは件の犬(この犬に最後まで名前がないのは重要)を調教し直すため、有名なアニマル・プロダクションの調教師を尋ねます。
調教師のキーズ(ポール・ウィンフィールド)は黒人で、ゆえに再調教を引き受けます。
キーズは犬と1対1で向かいあい、黒人が恐ろしい存在ではないことを根気強く教えこみますが…。
白いシェパード犬というのが珍しいのですが、穏やかな時は大きくてフカフカしてかわいいです。
しかし、黒人に対して牙を剥く様はまさに魔犬。
その攻撃性はひとえに人間が植え付けたもので、犬が抱える闇はそのまま人間そのものの闇に他なりません。
黒人調教師がこの犬の再調教に挑むのは、人間が与えた闇を人間が取り除けることを証明したいがためなのですが、結果は悲劇に終わります。
物語のクライマックスに登場するこの犬の元の飼い主たちの不気味さはフラー監督ならではで、観る者に激しい嫌悪感とショックを与えます。
全体として役者の線が細く、フラー監督の演出も力強さを欠きテーマに負けている感もありますが、いかにもフラー監督らしい問題作。
映画の出来映えはともかく、様々なことを考えさせられる作品でした。