「あの時二つの声が聞こえたんですよ・・・。」
まさかの瞬間を振り返ってジョーが呟いた。
「遅らせろ!」「早く!」
どっちなんだ?その迷いが。
冷たい風が吹き上げてくる。
県内各所では雨の予報でもあり、会場までの道中では何度も強い雨がフロントガラスを叩いた。
今にも泣き出しそうな雲り空の下。
ピッチコンディションは思ったよりも悪くはないが、所々に黒土が混じるグラウンドで足を取られそうな不安がよぎる。
戦前の予想では、各上の相手に「変形の6バックや7バックのシステムで延長・PK戦も覚悟」などと冗談ともつかない話が出ていた程に完全アウェーの状況からも厳しい展開を想定していた。
しかし、ホイッスルからペースはこちら。
前半も半分以上を残す中にそのチャンスは訪れた。
右サイドから駆け上がったリュウが抜け出し、キーパーと1対1の局面を作った、と思った。
「ちょっとループ気味にねらったんですけど・・・強く当たっちゃって。」
シュートを放つかどうかのタイミングでキーパーが飛び出し両手を広げた。
その右手にボールが当たった瞬間にベンチからも怒号に似た声が飛び交った。
「ハンドだろう!1点だよ!イエロー!?レッドだろ!!」
明らかにゴールエリアの外。
故意にボールを手ではじいたと言うよりは、広げた手に当たってしまったという状況ではあったが、主審の判定は1発「レッドカード」。
ここで数的有利に立ち一気呵成に畳みかけ得点をもぎ取りたいところではあるが、逆に勢いづくのは劣勢と化したチームに映るのはサッカーではよくある場面。
当初より<1点勝負><PK勝負>を計算に入れていた事もあり、ベンチからは冷静な指示が飛ぶ。
「あせって前掛になるな!」
「飛び込む必要はないぞ!遅らせろ!!」
「時間を考えろ!」
再三のチャンスはバーにはばかれ、前半は予定通りの0-0。
「良いんだぞ。作戦通りだ。」
「焦って余計な事をするとこちらが疲れてチャンスを与えるぞ。」
「40分の中で1点獲れば勝てるぞ。」
全ては作戦通り。
予想に反していたのは、人数をかけて守る必要もなく、普段の戦い方で進められたことであろうか。
後半が始まっても、危ない場面は、キーパーの好判断や身体を張ったディフェンスで1トップを封じ込める。
だが、なかなか得点に結びつかない。
イライラと焦りが募る中、やっとその場面は訪れた。
後半37分を過ぎたであろうか。
ヒカルが左足で上げたセンタリングに、今大会から公式戦に復帰したキャプテン・マサオが頭で合わせた。
キレイな弧を描いたボールはゴールの左隅に吸い込まれる。
待ちに待った瞬間が訪れた。
ここまではマサオがヒーローであった。
右足の踵を痛め、赤紫色に変色しているのをテーピングで固めて挑んだ試合に気合も入っていた。
残り時間はもう2分。
「もう時間ないぞ!もう一回落ち着かせてディフェンスライン整えろ!」
目の前の勝利に浮き足立ちそうになる選手達をベンチの声がなだめる。
そして、残りワンプレー。
20秒を残したところにその瞬間が待っていた。
キーパー・ジョーが蹴って、大きなプレーでラインを割ればホイッスルを待つだけ。
その時の二つの声。
一度浮かせ手から離れたボールを再びキャッチをしてしまう。
何が起きたのかも一瞬わからぬままに、主審のホイッスルが鳴り響いた。
本来であれば長い響きが会場を覆うはずであった。
6秒ルールの下に間接フリーキックが与えられた。
フリーキックが壁に当たり、「ヨシッ!」と思ったが左サイドの相手攻撃陣の前に転がる。
気持ちでは足を出してディフェンスをしていたが、
「足を出したかったんですが、両足がつってて出ませんでした・・・。」
とは元ヒーローの言葉だ。
PK戦までは作戦のうち。
「負けてないんだぞ!」
「作戦通り引き分けで延長なんだからあと20分で決めるぞ!」
だが、消耗戦と化した延長戦後半で足は止まってしまった。
一瞬の個人技についていけず、決勝点を挙げたのはあちら。
思い出したままにザッと書き綴ってしまいましたが、こんな結果でした。
ちなみに名前は仮名です(苦笑)
しかし、この敗戦でチーム全体が一つになり、次の目標に向けて一つステップを上がれたと思います。
「お前らの頑張りにみんなが泣いた!」 byキンタロス
北相大会優勝でも現状に甘んじて有頂天にならないように、叱咤激励で尻を叩かれ続けた生徒達。
結果に対しての評価が低く不満に思っていた生徒も多かったと思います。
もしかしたら、初めて誉められた試合をしたのがこの敗戦だったでしょうか。
皮肉なものですが、本当の悔しさと喜びを知った事で大きく成長してくれることでしょう。
連休中にはもうインターハイが始まります。
今度負けたら、3年生はもう引退試合となる全国予選が夏に控えています。
最悪、このメンバーで戦える公式戦は残り2試合。
どんな熱い夏を迎えられるかが今から楽しみですね。
そうそう、人数は少ないながらも新入生が入ってきました。
一般コースの加入を含めると20名位になりそうです。
2年生は同じ夏にはU-17のリーグ戦が待っています。
時間はあっと言う間に進んでしまうものですね。
この試合の後、逗葉高校を後にして湘南高校会場へ向いました。
延長戦もあったので到着が遅くなったのですが、ちょうど後半が始まるところ。
一転、こちらは田んぼサッカーのようなグランドコンディション。
どうしても近いプレーが多くなり、荒くなったのか、プレー中のケガの為に交代した選手が2名。
後半戦直後にもふくらはぎをスパイクされてもう一人が交代と野戦病院並みでした(冷汗)。
厳しい試合展開でしたが1-3の惨敗。
結局、母校の相模大野高校も敗れてしまい、関係3校全てが日曜日に姿を消してしまいました。
そして、今日は僕自身、市のシニアサッカーのデビュー戦です。
どうなることやら。