Mおじさんは10代で
東北のある県から
横須賀へ来て
寿司屋で働いた。
その後
縁あって
わたしの父と
住宅設備関係の
仕事をするようになる。
わたしが
2歳か3歳の頃からだったか
おじさんは
かわいいお嫁さんと
結婚するまで何年か
一緒に住んだこともあった。
血は繋がっていないが
父の弟分のような
存在だった。
父が会社に就職すると
おじさんも一緒に入社した。
その20年後ぐらいに
わたしも入社し
おじさんと同じ部署に
所属したこともあった。
おじさんは
まさかあの
小さかった(かわいい?)わたしと
働くことになるとは
思わなかったと言う。
同僚や部下と
軽口を叩き笑い合うこともあったが
どっちかと言えば口下手
おじさんをよく知らない人には
誤解も受けやすい
ツンデレ。
職人肌で
美観にこだわる。
ブツクサこぼしながらも
(それが通常運転)
綺麗で確かな仕事をした。
会社の飲み会の前は
一旦家に帰ってお風呂で汗を流し
髪型など身だしなみを整えて
会場へやって来る。
いつも作業服には
ぴしっとアイロンが
かかっている。
会社支給の茶葉は
まずくて飲めないという。
給湯コーナーには
MY茶筒があり
お茶当番は
おじさんのお茶だけは
その茶筒の葉で淹れた。
わたしが結婚し
退職してからは
おじさんとは
正月や父の誕生会などの
イベントでしか
会う機会はなかった。
それからずいぶん歳月が経った
年末に父の葬儀。
いつもの正月は
ひとりでお年始に来るおじさんは
年明けにご夫婦で
訪ねて来てくれた。
暮れに買い出しができず
食材の乏しかった我が家に
奥さんの手料理を携えて。
ほんとうに嬉しかった。
それからちょうど2年後に
具合が悪くなって
おじさんはたぶん
生まれて初めて入院した。
奥さんがとても動揺されていて
わたしも入院当日に
病床を訪ねた。
ツンデレなおじさんが
心から「ありがとう」と
わたしに言った。
おじさんが入院した前年秋の
ハロウィンに
わたしは予告しないで
おじさんの家に
ヴァンパイアの仮装で突撃した。
驚いた後で
おじさんはデレンとした
いい笑顔で
わたしと奥さんと
写真におさまった。
その後数か月であちらへ逝った
おじさんにとっては
わたしとは
最初で最後の
トリック・オア・トリートだった。
子どものいなかった
おじさんは
最晩年になってやっと
わたしが子供の頃からずっと
わたしをたいせつに思って
かわいいと思って
くれていたことを
表現してくれた。
ほんとうにとっても
わかりにくかったけれども。
おじさんが亡くなった後
おばさん(奥さん)から
定年後ご夫婦が
どのように暮らしていたのか
少しずつ聞くことができた。
おじさんは
おばさんが好きそうな
催しや旅情報を見つけては
おばさんを誘い
ふたりであちこちに
出かけたそうだ。
リーダーシップを
取るタイプではないけれど
3階建ての古いマンションの
メンテナンスに気を配ったり
静かに
(たぶん口先ではボヤキながら)
他の住民が気づかないことを
率先してやっていたという。
子どもがいないので
甥っ子さんたちと行き来して
かわいがっていたという。
わたしが知らなかったことが
いっぱいあった。
そのようなMおじさんが
2月はじめに
夢に出てきた。
わたしの家で
わたしと一緒に住んでいる
設定である。
おじさんが
外から帰って来た場面で
おしゃれできちんとした
おじさんらしく
茶系チェックの
ツイードのジャケットを着て
うっすら微笑んでいる。
わたしの家に
おじさんが一緒に住んでいる。
わたしの内に
Mおじさんがいる
共に住むとは
どういう感じなのだろうか。
おじさんを
感じてみる。
自分の美意識へのこだわり。
誰が何と言おうと
「これは譲れない」
と思うものごとには
妥協しない。
おじさんは
表現については
不器用だったかもしれない。
ご機嫌取りなどもしない。
でも
おじさんがしてきたことの行間や
持ち味は
読める人には
ちゃんとわかる。
(会社のお姉さま方も
みんなわかってたよ)
騒ぎ立てないで
目立たないところで
コツコツと
不言実行。
初めての入院をした後
おじさんは
家で養生していて
やつれた姿がみっともないからと
電話で「会いたい」と言っても
断られてしまった。
けれどその電話で
わたしと話せてよかったと
おじさんは後で
言っていたそうだ。
最期は
緊急事態宣言中の病院だった。
けれど
亡くなる前の日だったか
奇跡的にほんの5分ぐらい
奥さんは対面で
言葉を交わせたという。
ある人物が
夢に出てきたからと言って
その人を自分の内に
受け入れない選択を
することもできる。
今回登場のおじさんについては
わたしはしばらくの間
わたしの中の
おじさんと共に居ることを
選ぼうと思った。
美意識において
妥協しない。
コツコツと静かに
不言実行。
わかる人には
わかる。
伝わる。
冒頭の画像は
夜の新江ノ島水族館で撮りました。
美和子
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