45歳で第二子を出産した三輪。「弁護士」に加えて「母」という視点が加わったことで、見える風景にはどんな変化があったのでしょうか。SNS上を中心に見られる「子あり/子なし」の分断や論争をどう見るかについても伺いました。

 

●子と親は別人格と知った

――24年6月時点で、三輪さんのお子さんは8歳と2歳になられました。単刀直入にお聞きしたいのですが、子どもを産む前と産んだ後で、ご自身の価値観は変わりましたか。

 だいぶ変わりました。第1回でもお話しましたが、独身時代は自由を謳歌できていた反面、「自分1人で生きていく人生に意味があるのか」と悶々とする時間も少なくありませんでした。子どもができると親としての役割が生まれ、我が子の未来を真剣に考えるので、自分が生きる意味をより明確に感じやすくなったと思います。もっともこれは私個人がそうだったというだけで、いまシングルの方や子どものいない方々のことを否定する意図は全くありません。

 

――弁護士として日々依頼者の相談に乗りながら、テレビコメンテーターとして自分自身の見解を世の中に投げかける。それまでのお仕事も、自己実現の要素が大きく、第三者から見れば意味のあるお仕事に感じるのですが。

   うーん、傍からはそう見えるのかもしれません。でもそれって、別に私じゃなくてもいいんです。

 たとえばこの先もし私が弁護士を辞めるとか、けがとか病気とか何かの理由で、レギュラーとして出演した番組に穴を開けることがあったします。その時に、私の代わりにテレビでコメントができる優秀な若手弁護士なんてたくさんいます。大きな仕事をしているというわけではないですし、自分がいなくても色んな仕事はまわるだろうというのは、謙遜でなく感じていることです。

 

  一方で、家庭はやっぱり仕事とは違います。もし私がいなくても子どもは誰かが育ててくれはすると思います。だけど、やっぱりできるなら自分が親としてそばにいてあげたいんです。

 

――子育てを通して深まった実感はありますか。

 よく「子は親と別人格」と言いますが、そのことを腹落ちできたことが一番大きかったです。

たとえ親子であっても、人は1人1人みんな違っていて当然。子は親の思い通りにはならない、ということを身をもって教えてくれる存在ですね。

 

――ここで再び、独身の立場から疑問をぶつけさせてください。「女の幸せは子育て」など、「育児」や「出産」を、殊更女性の母性本能と結びつけて語る論調が多いことは個人的に気になっています。

 みんながみんなそうではないと思いますし、そういう「母性神話」みたいなものが薄まっていってほしいと心から思いますね。私自身、いわゆる「母性」がそれほど強いタイプの人間でもありません。育児の目的は、あくまでその子が1人で生きていけるようにしてあげること。自分ができるのはその手助けだと思っています。

 

 子どもがいる立場でも「母性神話」の弊害を感じることがあります。私は自分の選択として子どもを産みましたが、「子どもがいるのにそんなに働くのか!」みたいな批判を受けることもあり、「他人の人生を勝手に決めるな」と思いますよね。

 

――結婚前、ご予定はご自身が思うようにスケジューリングできていたと思います。でも、子どもが産まれるとそうも行かないことが増えてくる。思うように物事を進められないと、ストレスに感じませんか。

 うーん、第3回でも申し上げましたが、そもそも私は「人生は自分の思ったように進むものでない」と思っているんです。もし何でもかんでも自分の思うように進んだらとしたら、人間、きっと傲慢になってしまうと思います。

 

――過去のインタビューによれば、大学に入って、外交官の夢に挫折した後は毎晩飲み歩いていた時期もあったそうですね。今は、そのような欲求は感じませんか。

 それは即答で「ない」です。学生時代にずっと飲みに行く生活をしていたのは自分にとってはとても良い経験でしたけど、飲み屋に多くの時間を費やして、十分遊んだという実感がある。だから「行きたいけど、行けないのがストレス」と感じることはほぼなくなりました。

 

 もし本当に飲みに行きたければ、それはいつでもできること。それよりも子どもの成長のスピードの方が早いから、帰って子の顔を見た方が有意義だなと思うんです。自分が何を大切にしたいのか、ライフステージにおける優先順位が変わったということだと思っています。そしてそれは「今」がそういう優先順位だということで、今後も変わり続けると思うんですよね。

 

●叩くべきは個人ではなく、組織や社会

――子どもに関することは、こと女性にとってはとてもセンシティブな話題です。最近(24年4月)でいうと、産休に入る一般の女性が、赤ちゃんのイラストと「産休をいただきます」の文字が入ったクッキーの写真を職場に配るとツイートしたところ、X上で賛否が巻き起こり、論争に発展しました。この話題について、先生はどうご覧になりましたか。

 前提として、産むか産まないかはその人の価値観次第だと思っています。私は頑張って産む道を選びましたが、すべての女性が子供を産むべきとは全く思っていません。

 

 「産休クッキー」論争に関して言うと、気になるのは敵対心や憎悪が、産休を取る女性にのみ向けられていることです。仮に産休に入るからクッキーを配っている女性がいるとして、それはその人に問題がある訳ではありません。

 

――例えば、同じ部署で産休に入る女性がいるとして、その分の仕事は同じ部署の他の方に行くことになってしまう。特に独身だったりするとその分の業務を負わされ、「割を食っている」という気持ちも出てきてしまうのではないかと。

 そのような心情が出てしまうことも理解しますが、それははたして産休を取る人の問題なんでしょうか。

 産休取る女性にのみ敵対心を向けていても、誰も得をしません。誰かが割を食うような制度設計をしている会社組織だったり、そういった会社の存在を放置している国だったりに怒るべきじゃないですか。

 

 産休制度に限らず、分断を生み出す構図は至るところにあります。今ある仕組みを押し付けられて嫌だと思う側が互いの立場を理解し合い、制度を根本から変えていけるような世の中になるのが、私個人としての理想です。

 

(続く)

 

【取材・構成=松岡瑛理

 

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