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みう風呂 ふたことみこと小説

なんでもやります絵日記のみう風呂
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2月19日「矮鶏(ちゃぼ)」「熱伝導」

 午前六時。境内は深い藍に沈んでいて限りなく澄み、全ての音がそこでは不適切なものとして削除されている。僕と百合子も少し前まではひそひそ声でささやき合っていたが、やがてお互いの口からは白く柔らかくのびる息以外のものを出すことを控えてしまった。深い海のそこってこんな感じなのだろうか、と思う。そこは圧倒的なまでに青く体の組織の中まで入ってきそうなほど粒子の細かい清涼な何かが入った培養液みたいだ。夜の一番深い部分が終わり、朝が訪れる人呼吸前の時間の魔法の時間を、僕と百合子はぴったりとくっつきあって息をひそめて見つめている。百合子の華奢ななにもかもは僕の腕と肩の隙間にパズルのようにぴったりと重なり合う。柔らかな熱が伝わってくる。小さな鳥を抱いているように、柔らかくはかなく、しっかりと生きている「それ」を僕はとてもとても胸が気持ち悪くなるほどにぐしゃぐしゃにしたくなる。百合子は10歳も僕より多く生きているのに、たよりない十代の僕よりもずっとずっと脆くて壊れている。

「私は壊れてしまったかけらでしかないの」

 と、何時間か前の彼女は言った。

「私は生きて動いているものだけど、その実、壊れたろくでなしの役立たずでしかないの。そんな私は、あなたの熱を奪わないと生きられないぐらい心が冷たいの。無感覚になるぐらい冷たいの。そしてきっといつかあなたの心もまた同じぐらい冷たくしてしまうの。私はそう言う風にしか生きられないの。どうしようもないの。だからあなたと一緒にいる訳にはいかないの。どうしても」

 僕はそういいながら、僕の手の届く一歩先の部分でぶるぶる一人で震えながら立っている彼女を見ていた。言葉もあらゆる動作もそこでは無意味で、無価値だった。あらゆる「優しさ」でさえ、高いところでひとり叫んでいる彼女にはひどく辛く突き刺さるのだ。

「矮鶏をみたんだ」

 僕は、ぶるぶる震える彼女にようやくそれだけ言うことができた。彼女は道に迷った小さな子供みたいな弱々しくてどうしようもない顔で、僕を見た。僕の言っていることがよくわからないみたいだった。

「矮鶏をみたんだ」僕は続けた。「知ってる?矮鶏。ニワトリみたいな鳥」

 百合子は泣きそうな顔になり、弱々しくぶきような笑顔で笑って首を振った。

「中学の頃さ、好きだった女の子も交えた仲いい奴ら4人でこっそり家を抜け出して家出みたいにこのお寺で遊んでたんだ。夏休みのこと。打ち明け話したり、ちょっとしたゲームしたり、家から持ち出した酒をちょっとだけ飲んでみたり。そしたらさ、夜明け前に、好きだった女の子が言ったんだ。矮鶏がいる、って」

「矮鶏は、いたの?」

「いたよ。彼女の胸の中にいたんだ。大きい鳥でさ、くさくて。びっくりしたよ。だって、僕らはずっと輪になって話をしてたのに、いつの間に彼女が矮鶏なんて抱くようになったのか、意味が分からなくて」

「それで?」

「それがさ、僕と彼女以外の二人には、その矮鶏が見えないんだ。何言ってるんだ、二人で、って、笑うんだ。ほら、ここにいるじゃないか、矮鶏がいるじゃないかって、言っても全然見えないんだ。僕らもう、わけがわからなくなって、なんか場も白けちゃって、そのうちに、夏だから夜明けが来て、そしたら彼女の足に乗ってた矮鶏が歩き出したんだ。彼女は立ち上がって、追いかけた。僕も彼女を追いかけた。二人はもう半分怒っていて、僕らが結託してなにかたくらんでる風に思ってたから、座って寝たふりみたいなのしてた。彼女はまっすぐ歩いていったけど、大きな灯籠の横でたちどまってさ、だめだ、届かないって言ったんだ。見たら、矮鶏は寺の本堂の屋根の上にいるんだ。とべない鳥がいつのまにそんな所にいったのかわからない。彼女は僕を見て、言ったんだ。「吉田君、あの矮鶏をとってきて、おねがい」って」

「それでどうしたの?」

「とりにいけないって、すぐに言ったよ。彼女はがっかりした顔をして、それからふらっと本堂の方へ歩いていった。彼女にあったのはそれっきりだ」

「どういうこと?」

「その日以来、彼女はいなくなってしまったんだ。学校にこなくなった。不登校ってやつ。僕はいまでも思うんだけど、あのとき僕があの矮鶏を捕まえていたら、そんなことにはならなかったんじゃないかな。あの子は僕の気持ちをしっていて、僕に助けを求めたのかもしれない。思うに、百合子が今言っていることは、「私の矮鶏」を探してって、そういうことな気がするな。違う?」

 百合子は歪んだ顔でわらった。「どういうこと?」

「なんだっていいや。矮鶏を探そう。夜明けになったらきっとどこかに現れるから」



 僕の腕の中で百合子は震えている。あの日、あの女の子の膝の上で震えていた矮鶏みたいに。

 夜明けが近くなり、空気は神聖さを増していく。

 その時、百合子と僕は同時に吐息ともつかぬ感嘆の声をあげる。そこには、白く大きなとさかをもった矮鶏が悠々と歩いているではないか。

「いたわ」

 かすれそうな声で百合子が言う。矮鶏は悠々と境内を我が物顔に歩いている。

「つかまえよう」

 僕らは手をつないで立ち上がる。氷点下の中すわっていたので体中が痛い。
 
 その時矮鶏がたからかな声で鴇の声をあげた。それは、誰もが声を潜める凍り付いた空気を引き裂いた。そして、百合子ははっと息をのむと、次の瞬間大きな声で笑い始めた。

「やだ。みて」

 百合子が指差した先には白い看板があり、そこには堂々とした文字でこう書かれていた。「ちゃぼ お寺の大切な鳥です。えさをやらないでください」

「矮鶏は、このお寺のものだったのよ!中学の頃あなたがみたのも、この矮鶏たちだったのよ!」

 そう言って、また百合子は笑った。僕も、数年前の不思議な体験がばかばかしくなって笑ってしまった。笑いながら僕らはもう寒くて寒くて、自然にしっかりと抱き合った。あたたかく確かな熱伝導が二人が生きていることを証明してくれた。

「その子は矮鶏をうしなってしまったから消えたのだといたら」百合子は言った

「私は矮鶏を捕まえた。もう大丈夫」

 そして胸の中から僕の顔を見上げた。「あなたのその髪型、まるで矮鶏そっくり」

 僕は喜んでいいのかなんだかわからないけれど、彼女が笑ったのでそれでよかった。

 夜明けはもうすぐで、矮鶏はもういっかい、喉の具合を確かめるようにしっかりと鳴いた。
 





ごめんなさい、今日の今日まで「矮鶏」、読めませんでしたー^^;

検索したらちゃぼ。ちゃぼと熱伝導で、こんな情景しかうかびませんでした。

多少無理があるけどタイムリミットが近いのでアップしちゃいます。

2月18日「旋律」「飛沫」

お題提出者:奏空さん

 その旋律を聞いたものの中には、最終的に死んでしまったものもいるという。
 またある噂では、健康でなんの憂いもなかった屈強な若者が、狂い暴れてふさぎがちになり、しまいには部屋から一歩も出られなくなったという。
 聞こうと思えば今すぐにでも、インターネットの海の中からそのメロディをひっぱりあげることは可能だけど、幸いにして狂気の淵から帰還した命知らずの連中が、ブルーチーズみたいな顔色で口を揃えて言うには、

「これは、本当にまずい。遊び半分で聞いていいものじゃない」

 ということだそうだ。

 これは、本当に狂気なのだ、理屈もない、ただ、これは、狂気なのだ。

 にも関わらず、暇を持て余した学生やありとあらゆる都市伝説を検証しようとするものたちが、それを聴き、暗闇の淵にひそむ得体の知れないものたちに引きずり込まれていく。

 
 作曲者のことを話そう。
 そののろわれた音楽を作曲したもののことは、諸説あって誰も詳しいことは知らない。
 
 しかし、作曲した男は確かに存在していた。
  
 彼は音楽的天分を持って産まれた恵まれたものの一人だった。つまり全ての音を正しい音符に変換して楽譜にすることができたのだ。貧しい家の五男だったが、両親は苦労して天才音楽家の卵にピアノをならわせ、コンクールに出し、音楽学校へ行かせた。しかし彼にはそれらの長い月日は苦痛以外のなにものでもなかった。彼はただ、そこに「見える」音を楽譜にしていただけなのだ。彼の耳と目は完全につなぎあわさって、あらゆるものは音楽に見え、あらゆる音は風景に聞こえた。
 彼の作曲は、彼にとって、精密な画家の仕事に似ていた。

 二十歳になる前に、彼は目をくりぬいて死んだ。
 
 こんな音はもう聞きたくない、というのが彼の最後の言葉だった。
 
 その直前に、彼は列車事故を目撃していた。そこからまっすぐに帰宅して死ぬまでの短い時間に、その短い曲を作曲してインターネットの海に流した。

 その旋律は、飛び散った赤い飛沫のリズムを正確に楽譜に落としたものだった。





三ヶ月遅れですが。


飛沫ときいてこわいものしか浮かばなかったです・・・


トラウマ系の話でごめんね^^;
「牛肉」「スカート」
お題提出者 Miroさん


 牛肉を買うか、スカートを買うか。愛と恵の違いはそういうところにあった。
 愛と恵は、天使のように可愛い顔をしたたいそう仲のいい双子の姉妹で、子供の頃には、見えない鏡でもあるのかと知らない人は首を傾げて観察してみないとわからないぐらいに似ていた。五月の午後の光の中で、二人が芝生に寝転がって遊んでいるところなんかは、母親でさえ、愛と恵を正しく見分けられているのか時々自信がなくなった。二人はとろけ合い一人になったり二人になったりしているように見えた。光の加減によって増えたり減ったりした。
 だけどそんなめまいがするほどの相似も、二人が小学校へ入るまでには少しずつ変化を見せ始めるようになった。悪意のない同級生たちは、二人をこう区別した。

「太ってる方が愛。ばかみたいにおしゃれなほうが恵」

 愛はいつもいつもお腹が減っていて、家に帰ると食パン一斤と牛乳一本飲んだ後でシュークリームをほおばり、夕食ではご飯をどんぶり三杯おかわりした。愛くるしかった愛は、ふくふくしたかわいらしい子豚のようになった。それでも愛は嘆いたりせず、病気のように食べ続けた。
 一方恵は、おしゃれ狂いになった。毎日違うリボンを、毎日違う髪型の複雑にからみあった三つ編みのどこかにむすんだ。スケッチブックをもっては放課後、おしゃれなお店がある通りへ出かけ、素敵な靴やバッグやひらひらとしたスカートをいとおしそうにスケッチし、家にもってかえって冷蔵庫に貼るのだった。恵が街でみかけた素敵な洋服の絵で冷蔵庫の扉はいっぱいになり、夜中に、穴蔵から生まれでて来たような愛がどこからともなくはいだしてきてはその扉のなかにしまわれたハムやマヨネーズや卵を片っ端から食べ尽くすのだった。

 中学生になるころには、恵には両手で足りぬほどの上級生の男友達がおり、愛はいつも教室の隅にいた。だけど二人は相変わらず仲良しだった。放課後は、小鳥のように可憐な、茶色くふわふわした髪に綺麗な髪飾りをゆらした恵と、すもうとりのような愛の不格好なシルエットが夕焼けに溶けながら揺れているのを、人々は不思議そうに眺めた。二人がそっくりな双子であることを誰も気づかなかったのだ。

 高校を卒業すると、恵は都会へ出て、デザイナーになる学校へ行った。愛は食肉加工工場で働き始めた。センスのいい愛はたちまち頭角を表し、パリへの留学が決まった。一方愛は丸太のような腕で牛の肉をさばくその華麗な腕さばきが見初められ、工場長の奥さんになった。

 愛は日本を代表する有名なデザイナーになり、恵は数えきれないほどの牛を殺しては上質な肉として市場へ出荷した。健康な愛は子供をぽこぽこ産み、自らもモデルをしている恵は体型を気にして野菜しか食べず、もちろん子供も産まなかった。

 愛は持ち前のセンスでステーキ店と牛丼店をチェーンの子会社として設立し、それが大当たりして工場を100倍の大きさに成長させた。恵の誰にもまねできぬハイセンスな色彩や斬新なカットは、世界中のトップスタイリストたちに常に注目され、世界中の有名な女優や政治家のドレスもデザインした。ニューヨークにそびえるビルには、恵の名前が刻まれた。

 それぞれの方向で順風満帆な二人は、しかし70歳になるときっぱりとそれぞれの事業から足をあらい、山奥にあるひっそりとした養老院に二人で入所した。

 愛は満月の、恵は新月のような老人だった。しかしふたりの豊かな髪は銀河のようにうつくしく、上品な後ろ姿でベランダを眺めながらそっとちいさなささやく声で話す姿はまわりの人々の心をなぜか和ませた。

「ねえ、恵ちゃん、おぼえてる?」

「おぼえてるよ」

「あの時、五歳のあの時、お父さんがおいしい牛肉とスカートを買って来た時」

「おぼえてるよ」

「もしも、あの時、私がスカートを選んで、恵ちゃんが牛肉を選んでいたら」

「そうね。私たちは、きっと真反対の人生を歩んでいたわね」

「そう。だけど、結局はこうして二人で窓を眺めていたわね」

「そう。だって私たちはどちらをも選びかねたのだもの」

「すぐれたセンスを生かしてデザイナーになるか。すぐれた味覚を生かして食品界に君臨するか。どちらか選ぶなんて」

「決められないものね」

 そうして、ふたりの対照的なくせによく似た老女たちはくつくつと肩をゆらした。

「おかげでどちらも大成功」

「私たち双子で、本当によかったわね」





うまく着地できませんでしたが、難しかったお題がなんとか消化できました。

はぁ・・・ずっと肉模様のスカートしか浮かびませんでした。