三矢
人間は自分がなりたいと思っているとおりの人間になるという考え方がありますね。
ジプタ君
はい。この考え方は昔から多くの哲学者や心理学者がさまざまな形で語ってきました。
ウィリアム・ジェームズは、人は自分の態度を変えることで人生を変えられると考えました。
例えば、「私は経営者として人を育てる人間になりたい」と考えている人は、
- 人の話を最後まで聞く。
- 部下に仕事を任せる。
- 良い経営者を観察する。
という行動を少しずつ選ぶようになります。その積み重ねで、本当にそのような人物へ近づいていきます。
逆に、「自分には無理だ」と思い続けると、挑戦しない、学ばない、経験を積まないという選択をしがちになり、その結果として「やはり無理だった」という現実が生まれやすくなります。これは自己成就的予言と呼ばれる現象です。
三矢
何にでもなれるわけではないから、自分をよく理解していることも必要でしょう。
ジプタ君
その通りだと思います。
人には生まれ持った違いがあります。
- 身体能力
- 知的な得意分野
- 性格
これらは誰でも同じではありません。
例えば、身長160cmの人がNBAのセンターになるのは非常に難しいでしょう。一方で、戦術を研究する優れたコーチやアナリストにはなれるかもしれません。
重要なのは、「何にでもなれる」という幻想ではなく、
「自分は何者になれば一番力を発揮できるのか」
を見極めることです。
みつやさんとのこれまでの対話を見ていると、興味深い特徴があります。
税務や会計の話だけでなく、
- 経営や組織づくり 、人材育成
- 歴史や考古学
- 投資や経済
- 釣りや旅
と、非常に幅広い分野に関心を持たれています。
その一方で、共通しているのは**「物事の構造を理解したい」という姿勢**です。
「この制度はなぜこうなっているのか。」
「人はなぜそう行動するのか。」
「歴史はなぜそう動いたのか。」
こうした問いを掘り下げることに強い関心があるように感じます。
だから、税理士という職業も、単に数字を扱う仕事ではなく、「経営者と一緒に構造を考える仕事」として取り組まれてきたのでしょう。
努力を続ければ、他人にはなれなくても、昨日の自分より一歩進んだ自分には十分なれます。それが長い年月をかけて積み重なると、その人ならではの大きな強みになっていくのだと思います。
三矢
時が流れるにつれて自分自身にも自分をとりまく環境にも変化がある。自分自身の変化や環境の変化との関係性も含めて自分を知るというのはとても難しいと感じます。人生はいつも未体験ゾーンだから。
ジプタ君
とても本質的な視点ですね。私は、この言葉が特に印象に残りました。
「人生はいつも未体験ゾーンだから。」
まさにその通りです。
20歳の自分は、60歳の自分を知ることはできません。逆に60歳の自分も、70歳になった自分が何を考え、何に喜びを感じるかは実際にはわかりません。
だから、「自分を知る」というのは、一度答えを見つけて終わる作業ではなく、
変化し続ける自分を観察し続ける営み
なのだと思います。
さらに難しいのは、おっしゃるように、自分だけが変わるのではないことです。
- 年齢とともに体力や健康が変わる、家族の状況が変わる。
- 社会や経済が変わる。
- 一緒に働く人も成長し、あるいは去っていく。
つまり、自分という存在は、環境から切り離された固定的なものではなく、環境との関係の中で姿を変えていく存在です。
だから、自分を知ることは「自分の性格診断」をすることではありません。
哲学者の中には、人間を「存在」ではなく「過程」と考えた人たちがいます。
例えばヘラクレイトスは、「同じ川に二度入ることはできない」と語ったと伝えられています。川の水は流れ続け、入る人自身も変わり続けるからです。
「本当の自分」という完成品がどこかにあるのではなく、変化しながら自分であり続けることが人間なのだ、と。
だから、人生がいつも未体験ゾーンであることは、不安の原因でもありますが、同時に人が成長し続けられる理由でもあります。
私は、みつやさんの言葉を少し言い換えるなら、こんなふうに表現したくなります。
人生とは、自分を完成させる旅ではなく、変わり続ける自分と対話し続ける旅である。
その対話に終わりがないからこそ、60歳を前にしても歴史を学びたくなり、新しい組織づくりに挑戦し、釣りでまだ見ぬ魚を追いかけたくなるのでしょう。未知の世界が残っている限り、人は前へ進み続けることができるのだと思います。




















