第二十六回「あっち亭こっち勉強会」 | みつ梅の古今東西かべ新聞

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浪曲、歌舞伎を中心に観劇の感想を書かせて頂いております。
拙い文で恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。


第二十六回「あっち亭こっち勉強会」
◎2019年9月11日(水)・13時開演。
●於、お江戸両国亭

『道灌』
MISAKO
『小言幸兵衛』
あっち亭こっち
『怪談饅頭笠幽霊』
神田すみれ
ー仲入りー
『無声映画の魅力について』
周磨要、絵…飯田豊一
『岸柳島』
あっち亭こっち

お囃子…鶴田やよい

平成の浪曲界の記録とこれからの浪曲への思いを深い愛情を込めて綴った『木馬亭よ、永遠なれ。』の著者長田衛さんは、あっち亭こっちという高座名で社会人落語の世界でも大きく活躍をされております。

当月はあっち亭こっちさんと親交のあった作家飯田豊一先生の七回忌に当たり、ゲストに講談の神田すみれ先生を迎え、追善公演となりました。
飯田先生は演芸愛好家として諸芸に造詣が深く、また濡木痴夢男としてSMの世界においても第一人者として知られており、幅広い分野に渡り精力的に活動をされた偉人です。生前の飯田先生を存じ上げませんが、高座に上がられた演者の方々から飯田先生との思い出を拝聴し、お会いしてみたかったと思いました。

開口一番のMISAKOさんで『道灌』。枕で話された内容に誤りがあったり、演じ分けに気になる所はありましたが、隠居の描き方に味があり、芸に誠実さがあり、とても好感を感じる良い高座でした。

仲入り後に上がられた活動弁士の周磨要さんは、飯田先生が書かれた往年の名画の名場面のイラストを用いながら、数々の名台詞を名調子で語られました。
どこでも気軽に活動弁士の芸を楽しめるスタイルを考案された飯田先生の発想はすごいです。

ゲストのすみれ先生は、飯田先生がすみれ先生のために書き下ろされた『怪談饅頭笠幽霊』を読まれました。
江戸時代、深川の祭礼の際に起きた永代橋の崩落事故を題材に、大店の後妻と使用人の不義密通、不慮の死を遂げた女の怨念と娯楽的要素を含む聴き応えのある力作でした。
飯田先生の筆は密度が濃く、後世に残る名作と感じます。すみれ先生はご自身のニンに合わないなどの理由から、高座に掛けなかったそうで、二十年振りに出されたとのこと。とても良い本ですので、そんな勿体ないことをせずに掛けて頂きたいです。

あっち亭こっちさんは、『小言幸兵衛』と『岸柳島(がんりゅうじま)』の二席を掛けられましたが、飯田先生の思い出を語る枕から噺へと入る流れが自然体で、聴き手も自然に噺の世界へ入って行けました。
『小言幸兵衛』は幸兵衛が部屋を借りに訪れる店子希望者を次々と説教をして追い返して行く所が聴き所で、間の取り方、受ける側の反応が絶妙でした。幸兵衛も心配し過ぎではと思いますが、大家の役割を考えた時に、余計な所まで心配するのも当然のことかと思います。
『岸柳島』は厩の渡しで屑屋が侍に斬られそうになった所を年輩の御武家が知恵を使って助ける所が良いと思いました。侍が岸にあがった所を船を引き返させ、置いてきぼりにする所までの流れが、スリリングかつユーモアがあり、前のめりで聴き入りました。余談ですが、御武家に加藤嘉のような雰囲気を感じました。
なぜこの噺の題が『岸柳島(がんりゅうじま)』なのか不思議に思いました。侍と御武家の闘いを武蔵と小次郎に見立てたのかと思いましたら、昔、佐々木小次郎がしつこく立ち会いを挑む相手を小島にあげて舟を返し、勝負をしなかったという伝説から来ていると調べてわかりました。圓朝師が『巌流島』を噺の舞台の風景に合わせ『岸柳島』と直したそうです。

あっち亭こっちさんの噺は、江戸の匂いとモダンな感覚が合わさり、都会的な雰囲気があります。また、社会人落語は演じる人がそれまでどのような人生を歩んで来たかが高座に現れると思います。人に歴史ありで、プロ噺家にはない味があります。
あっち亭こっちさんの噺を聴きにまた訪れたいと思います。