僕はは大慌てでインターネットを開き、松山市内の獣医やら犬の飼い方を探していた。
もう既に気持ちは犬の飼い主だ。
7時過ぎに嫁が起きてくる。
「昨日の犬がまだ外におるんよ」
「パパ、昨日は全然興味無さそうやったやん」
「そうやけど、何か他人に思えなくて。昔飼っとった犬とそっくりなんよね。
何か縁と言うか、運命みたいなのを感じるんよね」
「何よ、それ」
嫁は笑いながら話を聞いている。
「そんなに気になるんやったら(家の中に)連れてこんけんよ」
嫁がそう言うや否や、僕はベランダへ飛び出した。
さっきのまま、あの犬が同じ場所にいればすぐに我が家へ迎え入れてあげようというわけだ。
すると、あれ、さっきまで空き地にいた犬の姿が見えなくなっている。
「おかしいなあ、おらんで」
「まだ、その辺うろうろしとるかも知れんよ、行ってみんけんよ」
言われるまでもなく外へ飛び出す。
家と空き地は用水路を隔てて少し高い段差になっているので、
犬がここを越えて空き地側から家側に渡るのは少々困難と思われる。
さっきまで犬がいたと思しき場所を見ると誰かが餌をあげたのだろう、
空の容器が転がっている。
(ここが例の「空き地」。当時はまだ、エサをあげたと思われる容器が置かれたままだった)
空腹が満たされて、新たな安息の地を求めて再び流浪の旅へと出てしまったのだろうか。
もしそうであっても、そう遠くに行ってはいないだろうと、
振り返って家の方へ引き返そうとしたその時、視界にさっきの犬の姿が飛び込んできた。
確かについさっきまで僕の後ろには誰もいなかったのに、
まるで別の世界からふっとこの場所に入り込んできたみたいにその犬は突然目の前に現れたのだ。
そして僕の姿を見つけると、
まるで旧知の友人のようにしっぽを振りながら駆け寄ってきて前足を上げて飛びついてくる。
「お~、そんなとこにおったんか~」
僕もまるで昔から知っている間柄のように話しかける。
背中は昨日の雪のせいだろうか、パリパリになっていて昨夜の寒さを物語っている。
「うわ~、こんなにパリパリになって。今からあったかいところに連れてってやるからな~」
そう言って近づいて抱きかかえても全く抵抗しない、
むしろ安心しているかのようにしっぽを振り続けている。
偶然見つけた犬を助けると言うよりは、
この子はここが何処かわかって来ていたのかと錯覚してしまうような不思議な感覚に包まれる。
昨夜の悪天候と今までの厳しい環境での生活のせいだろうか、
体は所々黒く汚れて、抱き上げるとまるで紙のように軽い。
僕は上着を泥々にしながら2階に連れて上がる。
階段を登り切ったところで、この騒ぎを聞きつけて起きてきた長女が前を塞いでいる。
「キャ~」
犬を抱きかかえた俺を見て逃げる長女、昨日あんなに飼いたいって言ってたくせに。
やはり目の当たりにした『リアルな犬』姿に少々抵抗があったようだ。
お風呂場へ行くと既に嫁がシャワーを持ってスタンバイしていた。
