武田信玄、徳川家康、伊達政宗 と話を進めたところで、今回はちょっと休憩…

前にも「当直」の話を少し書きましたが、今回も……

夜中に来院する患者さん、ま、確かに仕事で当直をしているのですから、そんな患者さんをイヤイヤ診察している訳ではないんです。
ただ、「一週間前から風邪気味で…」とか、「もう大分良くなったんですけど、念のため…」とか、「昼は混んでるから…」とか……
そんな理由で午前2時来院!!!
は、ないですよねー。「そんな人、いないでしょ」と、良識ある方は思われるかも知れません。でも…いるのです。ついこの前もいたのです……。
そんな時は、もちろん仕事ですから、営業スマイルで、「薬は夜間なので、一日分しか出ませんよ」と、ささやかな抵抗をします。若かりし頃は「あなたねえ!」と説教じみたことを患者さんにしたものですが、今は自分がしんどくて……。

この前の当直も、常連のおばあちゃんが、「しんどい」と夜の11時に来院されました。しかも両手に荷物を一杯持って。一緒に来た娘さんも病院に預ける気満々って感じで……。診察しても特にこれといって悪いとろはありません。いつものことです。今回は何でも親戚の集まりがあるから、おばあちゃんが一人で家に居ても面倒を見られない、ってことで、何とか入院させられないかと……。しょんぼりしているおばあちゃんを見ていると、ちょっと気の毒になって、入院という言葉が頭をよぎりましたが……。何せ夜の11時です。入院となると事務的な事から、病棟の準備まで、事務の人、看護婦さんも含めてちょっとした騒ぎになります。夜中の入院となると、もちろん誰もが納得する重症の患者さんの場合ならば、他の仕事を差し置いても入院の準備をします。ところが、このおばあちゃんの場合は、とても病棟や事務を納得させられる自信はありません。そうです、医療とは医師だけの独断で決まる訳ではなく、共同作業なのです。
何でこの人が入院なんですか?
的な空気が流れると非常に働きにくいのです……。
と、いうことで、おばあちゃん、点滴だけで帰ってもらいました。

ニュースなどで、色々言われていますが、現場の医療は難しいのです。ちょっと田舎の病院に行くと
越冬入院や、避暑入院
なんてのは当たり前です。日本人全体の意識やモラルが根本的に変わらないと医療費の無駄遣いや、医師の過剰な負担は絶対に無くなりません。

すみません、今回はちょっと愚痴ってしまいました。
かなりご無沙汰してしまいました…。

噴門、というと、ちょっと耳慣れないかも知れません。胃の入り口の辺りを言います。つまり胃の入り口付近に出来る癌の事を噴門部癌と言います。

胃癌が出来る場所、というのは様々です。胃の出口に近い所、胃の真ん中、そして胃の入り口…。一般的に高分化腺癌といって、比較的たちの良い癌は胃の出口に近い所に出来ます。胃の真ん中に出来るのは未分化癌が多く、これは悪性度が高い、つまり進行が早く、転移しやすい癌です。

噴門部癌はどうでしょうか?

一般的に分化型の癌が多いです。では、たちが良いのでしょうか?

そうではありません。少なくとも戦国時代ではそうではなかったと思います。医学が進歩した現代では分化型の癌というのは発見さえ早ければ問題ありません。ところが、手術などの治療法が無かった戦国時代では癌が出来る場所が問題になると思われます。

胃の入り口というのは狭くなっているのです。そんな所に癌が出来てしまうとどうなるのか……。食べたものが通らなくなってしまうのです。今まででも書いたように、点滴が無かった当時は食べられなくなった時が死ぬ時なのです。つまり、噴門に出来た癌が食べ物の通り道を塞いでしまった時点でジ・エンドなのです。そんなに進行していなくても(現代ならば手術で助かる段階でも)、食べものが通らないとなった時点で命の危機となります。伊達政宗がどういう根拠で「噴門部癌」という診断となったのかは分かりませんが、恐らくそれほど癌が進行していない状態で衰弱していったのだと思います。
ちょっとご無沙汰してしまいました……。

食道腺癌の話です。前回お話したように、一般的にバレット腺癌と言われる癌ですが、伊達政宗がそうだった可能性はあるのでしょうか? 

可能性はありますが、極めて低い、と思われます。

と、いうのも、そもそも日本人にはバレット食道そのものの頻度が低いのです。これは、以前にも書きましたが、ヘリコバクターピロリ感染率が高い、ということにも関連しています。ヘリコバクターピロリ感染を起こした胃は一般的には胃粘膜からの酸の分泌が低下します。そうすると、食道に逆流する酸も減ってバレット食道になりにくいのです。当時はヘリコバクターピロリの感染はかなり高頻度だったことが想像され、また、ヘリコバクターピロリ感染が減っている現代においてもバレット食道、バレット腺癌の発生頻度はかなり低いのです。あくまで確率の問題ですが、伊達政宗がバレット腺癌であったとは考え難いです。

バレット腺癌の頻度が低い、ということですが、実際の臨床の場においてもバレット腺癌と聞くとおおっとなります。最近になってヘリコバクターピロリの感染が低下し、逆流性食道炎の頻度が増加しており、今後バレット腺癌の頻度も少しずつ増加することが予想されています。ただ、患者さんをみていると、逆流性食道炎=バレット腺癌と言う訳ではなく、かなりヒドい逆流性食道炎を数十年無治療で放置した場合に、まれにバレット腺癌が発症する、という印象です。

ということで、やはり噴門部癌と考えるのが妥当でしょう。

次回は噴門部癌について……