古道に行こう(その3) | 旅ノカケラ

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@人生は先がわからないから、面白い。
@そして、人生は旅のようなもの。
@今日もボクは迷子になる。

 道は荒川に沿って延びている。川を渡るためには橋を渡らなければならない。近くの橋は戻ったほうが近い。でも、戻りたくない気持ちのほうが強い。次の橋までのなんと遠いことか。目的もなく県道を歩いている。蒸し暑さから来る不快感と希望通りに進めなかったもどかしさ。それにしても足の疲れがまったくないことが不思議だ。疲れて歩けなければ、諦めもつくだろう。


 立派な大きな石柱に札所二十二番堂子堂と書かれていた。パンフレットに書かれている通り眺望よろしく、荒川が見え対岸が広がりを見せている。緩い下り坂を下って札所に寄ってもいいが、札所巡りが目的でもないと思い、そのまま県道を歩き始めた。細い上り坂が右手に延びている。そこに巡礼古道の案内板があった。パンフレットを見ると、明治巡礼古道ではないか。江戸がダメなら明治でも、いい。至る先はどちらも札所二十三番音楽寺に通じている。音楽寺のネーミングにちょっと行ってみたい気がむくむくと湧いてきた。


 舗装路の上り坂をずんずんと歩く。こんな調子がいつまで続くのかな?と思っていたら、この先行き止まりの看板が建っていた。先には車止めが置かれ、車は進入できないようだ。その脇に人が歩けるほどの歩道があって、小鹿坂巡礼歩道と案内板があった。どうやらパンフレットでは点線で書かれているコースのようだ。車止めを無視していけば江戸巡礼古道と合流するような気もするが、案内板がない。わかりずらいパンフレットでまた迷子になることは、ちょっと避けたい。眺望良好な十三地蔵に行ってみたいが、小鹿坂巡礼歩道に進むことにした。


 歩道はいつしか舗装路から未舗装路に変わり、小鹿坂巡礼歩道から小鹿坂ハイキングコースと案内板の文字も変わってしまった。耳元で蚊がぶんぶんと唸るからパンフレットを片手にバタバタさせながら山道を歩く。やっぱり森の中を歩くって、疲れるけれど気持ちいいもんだなとずんずん歩いた。やがて山道から舗装路に変わって、案内板に従って歩いていくと、ひょっこりと札所二十三番音楽寺に着いてしまった。建物をチラッと眺め、敷地内にある水道のところまで行き、口の中を湿らせ、腕に水をかけて、顔をざぶざぶ洗った。なんと水の気持ちいいこと。頭から水を被りたい衝動に駆られる。ぐっと我慢して、さてオニギリでも頬張ろうとあたりを見渡すが、涼しげな日陰がない。すぐ下ったところにお茶屋があったので、そこで冷たいお茶でも買ってお昼にしようとお店に入った。昼間なのかお客もなく、店の人も姿が見えない。缶やペットボトルに入った飲み物を冷やしている透明なガラスの冷蔵庫の脇にアイスの冷凍庫があった。手作りアイス120円、ゆず、あんず、と書かれている。疲れている体はすっぱいものを欲しがっている!暑さでくたくたの体は冷たいものを欲しがっている!扉を開けてアイスを選んでいたら、奥からいらっしゃいと店の人が出てきた。よっぽど疲れたひどい顔をしていたのだろうか、ゆずのアイスとお茶のペットボトルを選んでお金を払うとさっさと奥に引っ込んでしまった。店の前は日陰になっていて休憩できるが、柱には持込の飲食はご遠慮くださいと大書きがしてあった。オニギリが食べられないじゃないかと思いながら、ザックを降ろし、椅子に腰掛けて、ペットボトルのお茶を一気にごくごく飲んだ。そして、アイスのカップのふたを開けて、ひとくち頬張る。すっぱさが口の中に広がり、きんきんと冷たさが身に染み渡る。カチカチだったアイスはすぐに表面が柔らかくなってくる。ひとくち頬張るたびに、すっぱさと冷たさのハーモニーが疲れた体を癒してくれる。ああ、夏だ。そう思わずにはいられない。こんなところで、夏らしい夏を感じるなんて。


 しばらくアイスの余韻と吹き抜けていく風を全身で感じたままぼーっとしていた。心に余裕が出てきたのか腹の減り具合が気になってきた。歩き始めたのは十一時半だったからとっくにお昼は過ぎていた。持ち込み禁止のお茶屋さんで持参のオニギリを食べるわけにも行かないので、坂の上の音楽寺に戻って食べることにした。石で出来たテーブルとイスが置いてあって、そこで食べることにたが、うっすらと日が射してるところだからたまったもんじゃない。汗をかきかきオニギリを頬張った。長く歩くことは登山にも似た感じもあってか三つ用意したオニギリのうち1つしか食べられない。登山では頂上で、はいお昼と食事することもあるが、ちょくちょく休む合間にちょこちょこ食べ物を口にして登ることも多い。ピークを目指す登山じゃなくても、ハイキングのような古道歩きは登山と変わらない気がする。高低差があるかないか。舗装路があるかないか。目的となるピークがあるかないか。違いは多いが歩くことにはかわりがない。ひたすら歩くだけ。


 長めの休憩で気分一新。次を目指しはじめたが・・・。


 重い腰を上げて、一歩踏み出そうとするが順路がわからない。巡礼路はこっちですよと案内板がないのだ。休憩の間、パンフレットを眺めて、大きな駐車場があって、ここにはトイレが2つあって、道路をはさんで反対側には梅園があって、その先は駐車場の中を通って・・・、と大体のコース内容を把握していたが、音楽寺からそこに至るまでが不案内で困った。こんなときは勘に任せるほかはなく、お茶屋さんを過ぎて真っ直ぐ下り坂を降りずに右の道へ進んだ。あらら。見晴らしがいい高台で木陰に休憩用の長椅子が置かれてあって、ここでオニギリを食べればよかったと後悔することに。十分に休憩も取ってしまったことで再び腰を下ろして風景を眺める気も起きない。残念、残念。木立の中の舗装路をずんずん進んでいくと、大きな駐車場に出た。パンフレットをみればわかるのに、こういうわかりきったところにちゃんと巡礼路の案内板があるなんて、どうなっているのでしょう。ここの駐車場はミューズパークと名付けられた公園でかなりでかい。どこからどこまでが公園なのか仕切りもなくて、いつの間にか迷い込んだ気にさせる。駐車場を横切って、車道に出て道沿いに歩いていくと小さな駐車場があった。パンフレットには親切丁寧に駐車場の中を通ると書かれているが、ここにもしっかり案内板が立てられていた。わかりやすいところはいいから、もっと別の場所に案内板が欲しいものです。その駐車場を終わると、パーク内の車道になってしまった。はて、この道でいいものか。下りの舗装路がうねうねと続き、ところどころに巨大な東屋が点在していた。淋しげな場所の人工物ほど、物悲しいものはなく、早く通り過ぎたいがコースがあっているのかも不安でひたひた歩くしかない。パーク内のどこそこへ向うための案内板があって、細い上り坂があったが違うなぁと先を急いだ。前方には大きな砂防ダムがあって脇に大きな東屋がある。どう見ても行き止まりで自分が今どこにいるのかわからない状況に立たされてしまった。下し坂をひょいひょい下ってダメだったらしんどい上り坂を登らねばならず前に進む足が止まってしまった。うーん、道を間違えたか。ここに来て、再びもう辞めたと投げ出したい気分になってきた。そうは思っても歩かなければどこにも行かれない。パンフレットを見ると川を渡る感じで書かれている。もしかして?ダメならダメで引き返そうと歩いていくと、小さな小路があって巡礼路の案内板が立っていた。そして山側に未舗装路の小路があって、そこが本来の巡礼古道だった。どこかで案内板を見落としたのか、再び古道にほっとした。それでも、巡礼路の不案内さはちょっと腹立たしい。ここからは一本道の未舗装路の古道で迷うことはない。杉林を抜けると、車道に出た。舗装路をずんずん歩いていくと、大きく案内板に江戸巡礼古道と書かれていたので、それに従って上り坂を登っていった。すると農家らしき建物の脇に小路があって、案内板と道しるべの石が置かれていた。迷うことなくそこへ進むと農家の敷地内に道がつけられ案内板に従ってウロウロする感じに歩いていったら突然道はなくなり開けた斜面に植えられた梅林が広がったところに出てしまった。どうなっているんだ?梅林の中に降り立ったもののどっちの方へ行けばいいのかわからない。途中で道を間違えようにも道らしきものもなかった。
 
 と、ここでぶち切れてしまった。もう辞めよう。本当におしまい。


 この先、古道のハイライトとなる念仏坂、永源寺跡と続くのだが、古道を歩く気持ちがぷっつりと切れてしまった。一度や二度の迷子なら楽しむ余裕もあっただろうに度重なる私は今どこ?が多すぎる。来た道を引き返し、もしやと別の道を進んでみたが農家の敷地をぐるりと周るように再び同じ車道に出てしまった。これにて後悔はなしと古道を外れて町を目指して舗装路を下っていった。


 古道歩きをやめて歩き始めたもののどこかの駅まで歩かなければならない。はてしなく遠くに橋があってその向こうに町並みが見える。いつになったら着くのだろうか。とぼとぼと歩いていくと大きな県道に出た。古道を外れても現代の車での巡礼を象徴しているかのように巡礼路と案内板があった。とてもじゃないが排気ガスを被りながら歩く気にはなれない。そう思うと、迷いながらも歩いてきた道はとてもよかったと思う気になる。
 
 橋を渡れば、家が建ち並ぶ住宅街になってしまった。日はまだ高く一日で一番気温が高い時間を過ぎた頃だから、照り返しもきつく、どこかで少し休憩をしたくなる。しかし、街中で日陰があって気持ちよく休めるところはない。この道をひたすら真っ直ぐ歩いていけば、やがて御花畑という駅に着くことになる。歩いていさえすれば必ず着く。足腰に疲れもなく足だけが前に行ってくれることだけが少しの救いだ。上半身は汗びっしょりで頭は朦朧としているからただただ苦しい。もう少しで駅だなというところで道沿いに札所十三番慈眼寺があった。少し休ませてもらおうと境内に入るとすぐ冷たい飲み物の自販機があって、日陰がある休憩所もあった。ザックを降ろし、冷たい飲み物を飲みながらゆっくりした。街中にあるのになんとも落ち着く。建物の間から列車が通り過ぎて停まった気配がする。もう、すぐそばに線路があって、駅があることがわかる。今列車が行ってしまったから田舎の列車なので当分次の列車は来ないだろう。慌てず騒がず次の列車に乗ればいい。列車に乗ってしまえば・・・。温泉に行って湯船に浸かって・・・。もうすっかり歩いていたことなど遥か彼方に行ってしまった。


 御花畑駅は街中にあって、花畑の中にはない。メルヘンチックな駅名だが、素朴な駅といったほうがいいだろう。改札の前に待合室があって、列車が来るまで人々はそこでじっと待つ。列車が来る頃になって駅員さんが改札をあけて切符を切ってくれる。かなり待たされたがもう歩かなくてもいいのだろ思うと体はぐったりとして待合室のベンチでトロトロになって座っていたから時間は気にならなかった。その後、冷たいシャワーを浴びて露天風呂でぐにゃぐにゃになって家へと向った。


おわり。