1970年代の事件
◎速ければいいのではない!

戦後を代表する財界人の小林一三(こばやし いちぞう)。
阪急電鉄グループの総帥でもあり、
戦前から戦後にかけて貴族院議員になり、
複数の大臣も経験した。
まさに政財界の大物である。
宝塚歌劇団の設立者でもある。
その小林一三の言葉のひとつが、
「下足番を命じられたら、
日本一の下足番になってみろ。
そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」
というもの。
つまりその置かれた環境に腐るのではなく、
自分の出来得る努力をするべきだ。
そうすれば道は開かれる。
ことを述べている。
置かれた環境のせいにして
不平不満を言うのはたやすい。
その環境の中でもベストを尽くすべきだと
小林一三は言う。
それは誰にでも言えるだろう。
現在、世界的な映画監督であり、
俳優でもある日本人といえば…
北野武!
その北野武も下積み時代
ストリップ劇場で芸人をやっていた。
そこで腐ることなく努力を続けたので、
現在の地位を築いたといえる。
このような例は昔からあった。
例えば江戸時代を代表する芸術の人形浄瑠璃。
その幕と幕の間(幕間:つまり休憩時間)に
今でいうショートコントが行われていた。
これが評判になったのが
野呂松勘兵衛(のろまつ かんべい)。
彼はその寸劇時に、
非常にゆっくりとした人形劇を演じていた。
それが故に、当時の人は動きの遅い人のことを
「あいつは野呂松(のろまつ)だ!」
と言っていた。
それが転じて動きの遅い人のことを
のろま!
というようになった。
なるほどなるほど!
「のろま」とは人の名前だったのか。
なんか「鈍間(のろま)」と書くので、
間を移動するのが遅い奴のことかと思いきや
これは当て字だったようだ。
本当の語源は「人の名前」だった。
ところで「のろま」と言われて喜ぶ人はいない。
普通は悪口だ!
のろまとは、仕事のできない奴!
それ故に普通「のろま」と言われると、
怒る!
試しに隣の人に言ってみるがいい。
※やるなよ、やるなよ、絶対やるなよ!
このように「のろま」とは仕事ができない奴で、
その逆に速い奴とは仕事ができる奴。
そういうイメージがある。
しかしいつも速い方が良いという訳ではない。
のろまにはのろまの良さがある。
中にはのろまの方が…
むしろ優れていることもある!
1974年11月27日の新聞夕刊に
以下の記事が載った。
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ノロい自動ドアがお手柄
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記事によるとこういうことだ。
27日午前9時40分ごろ、
大阪市にある三菱銀行鶴橋支店で
現金強盗事件があった。
同支店で現金310万円をおろした会社専務が
銀行のカウンターで確認のため数えていると、
若い男が近寄ってきた。
男は専務に話しかけるが、
専務は無視していた。
すると直後に男は現金270万円分を鷲掴みし、
出口に向かって駆け出した。
不意を突かれた専務が声を上げるも
男は既に出口付近まで行っていた。
しかしその出口の自動ドアの反応は遅く、
非常にゆっくりだった。
それ故に声を聞いて駆け付けた銀行員数人に
男は取り押さえられ、警察に突き出された。
男の名はB(20)で無職だった。
うーむ!
急いでいる時には
チョットしたことでもイライラするものだ。
ましてや衆人環視の下、金を盗んだのなら
一刻も早くそこから逃げたかっただろう。
しかし自動ドアがノロかった。
犯人には忸怩たる思いをしただろう。
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若者 金が欲しい
若者 とにかく金が欲しい
若者 金があるところといえば
若者 銀行だ!
若者 そこで銀行に来た。
若者 金を預けるためでもなく
若者 金を借りるためでもなく
若者 金を得るために
若者 盗むために行く
若者 金があるということは
若者 盗まれても問題が無い
若者 そういうことだ!
若者 おっ…アイツ…
若者 金を数えている
若者 それも銀行のカウンターで…
若者 結構あるなァ
若者 あれだけあれば…
若者 少しくらい頂戴しても
若者 大丈夫だ!
若者 あんなオッサンが使うより、
若者 俺のような前途ある若者が使う方が
若者 有意義だ!
若者 罪と罰じゃないけど
若者 世の中の善行に為に使うのなら
若者 強欲な老婆を殺しても許される。
若者 そう…それが神の思し召しだ。
若者 それならやろう。
若者 あの金を奪おう
若者 幸いこっちは若い
若者 不意を突いて逃げれば
若者 逃げ切れる!
若者 よしっ、盗った!
若者 あとは逃げるだけだ!
若者 えっ?
若者 自動ドアが開かない
若者 一応開いているけど
若者 信じられないほどノロい
若者 こっちは急いでいるんだ
若者 早く開け!
若者 もっと速く!
行員 待て!
行員 捕まえろ!
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と…いうことのようだ。
まあせっかく銀行強盗をやって、
自動ドアのせいで捕まるとはムカつくよな!
◎忙しさは心を亡くす!
まあ自動ドアとは
そんなに速く開閉するものではない。
あくまで自動で開閉するものだが、
速く開閉するとは限らない。
こういう時は落ち着くことだ。
落ち着いて周りを見て、
自動ドアが開くのを待てばいい。
大体、現代人は忙しすぎる。
だから自動ドアが開くのが待てない。
まあ銀行強盗をやる奴は急いでいるが、
それ以外の人はそうでもない。
多少忙しい人でも
自動ドアがゆっくり開くことくらい
待つ余裕が欲しい!
例えばエレベータを待つ間に
何度もボタンを押す奴は…
心に余裕が無い奴だ!
例えばコイツのように…!
事実コイツは殺人犯になった。
そして余裕が無いので
落ち着きがないところを見透かされ、
逮捕される!
このように余裕が無いと…
成功は覚束ない!
なら自動ドアが開くくらい
余裕を持って待つ!
そういう心構えが必要だ!
「忙しい」という漢字は
「心を亡くす」と書く!
この犯人は自動ドアではなく、
余裕のない自らの心に負けたのだ!
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俺 余裕だ!
俺 心に余裕を持つべきだ
俺 それでなければ成功は
俺 覚束ない!
俺 大したことないものでイライラする
俺 それは心に余裕がない証拠だ
俺 俺はそんなことはしない
俺 例えば自動ドア
俺 自動ドアの開くのが遅い
俺 そういう時もある
俺 随分ノロいなぁ!
俺 そう思う時こそ
俺 余裕が無い時だ。
俺 忙しくなり、余裕がなくなると
俺 たかが自動ドアの開くことだけで
俺 怒りが湧いてくる!
俺 それではダメ!
俺 むしろ逆だ!
俺 自動ドアの開くのが遅い
俺 そういう時こそは
俺 調子がイイのだ!
俺 例えばこの男
俺 ボールが止まって見える
俺 そう言ったそうだが…
俺 アスリートにはそういう意見が多い
俺 「ゾーンに入る」という状態だが、
俺 非常に集中している時に起きる。
俺 この時周りは
俺 非常にゆっくり動いているように見える。
俺 つまり自動ドアがゆっくり開くのは
俺 ゾーンに入っているから。
俺 そういう調子がイイ状態
俺 その時に自動ドアはゆっくり開く
俺 例えば今も自動ドアは開いていない
俺 さっきからドアの前に立ち尽くし、
俺 かなり時間がたっているけど
俺 ずっと閉まっている。
俺 これはゾーンに入っているからか?
俺 ゆっくり開くどころか
俺 まさにドアが止まって見える
俺 俺の今は…
俺 すごいんじゃないのか?
行員 スイマセン。故障です!
俺 ・・・・・・・・・・・・!
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と…いうことは全く無かったが、
そして壊れたドアの前に立ち尽くす必要はないが、
ゾーンに入った場合は、
止まって見えることもあるそうだ。
話を戻すが…
普通は速い方がイイ。
しかしたまには遅くても役に立つ。
この自動ドアはまさにそうだった。
昔の人はこう言った。
「狭い日本、そんなに急いでどこに行く?」
そう…急ぐのもいいが、
ゆっくりなのも悪くない!
今回の自動ドアのようにな!