GWエピソード②-3 -ぬくもりから離れる悲愴- | m

m

ey

<これは第3話です。(↓をクリックして、読みたいところからお読みください)>

*第一話⇒GWエピソード②-1 -常夏のメモリアル-

*第二話⇒GWエピソード②-2 -真夜中の梅雨前線-



5月4日(火)


最終日。朝、起きる。

気がつけば、8時。


9時55分の便に乗らないといけない。


移動時間を考えたら、もうあと1時間もない。



でも.......泣いちゃいけない。


オレは今日は泣いちゃいけないんだ。


今日はあの人を困らせるようなことをしたくない。


昨日はオレが先に折れちゃった。オレが彼女を困らせてしまった。


だから今日はゼッタイ泣かないんだ。


笑って、元気に手を振って別れていきたい。




荷物をつくり、着替えて、ホテルをチェックアウトする。




9時20分。

無事空港に到着する。


座席の調整をしているとのことで、まだ搭乗できないようなので、おみやげコーナーで買いもの。

買い物を済ませ、再び受付所に行くと、チケットを受け取ることが出来た。


もうすでに9時40分。

時間に余裕はない。


搭乗口までたどり着く。

着くなり、オレは「もう行くよ」と言うと、彼女がオレを引き止める。


オレを彼女の荷物があるところまで、連れて行く。

かがみこむ。

バッグをあさっている。


なにかあるのだろうと思い、オレもかがんでみた。


すると、2つのハンカチをトランプのように右手で持って、自分の顔の前に差し出し、「どっちがいい?」とオレに尋ねてきた。


オレにとって

手前のハンカチは、青い。

奥のハンカチは、茶色い。


彼女にとって目の前にある、その茶色いものは、今、彼女の眼の水分を吸い込んでいる。

別れの悲しさという重みを持つハンカチ。

コレこそ、最後の、そして最高の宝物だ。



オレは、その拭かれた奥のハンカチを右手で取り、そっと抱きしめた。



オレは泣かなかった。


その想いをすべて受け止めたかったからだ。


この場では、オレが感情をあらわにしたくない。





「55分の便に乗られる方はいらっしゃいませんか~!?」


空港のスタッフがオレを呼ぶ。


ついていく。


列を作って歩き出す。


搭乗口で手を振り、そして、のべ48時間、いつも右腕にいたその人は、視界に映らなくなった。



ダメだ。抑えきれない。

それでもオレは我慢する。


歯を食いしばりながら、飛行機に乗る。



窓から2番目の席に座る。


窓をふっと眺める。

2日前の景色と同じ。


でも、思いは2日前と全然違う。

こんなにつらい思いをするなんて・・・。



10時05分、飛行機が後ろに動き出す。


その時、オレの体内にある制水の弁が一気に使用不能になった。


ずっと0cmだった距離が、500m、5km......と遠ざかっていく。。。

愛を確かに感じていた、あのぬくもりが、夢と妄想の世界に変わっていってしまう。。。。


そんなこと考えたくなくても、オレの感情がもうどうしようもなかった。


ただ、オレも泣いていると思われたくなかったようで、

彼女の涙が入ったハンカチの代わりに、彼女から貰った黒いぼうしを顔にあてた。

ぼうしがオレの涙を吸い込む。



隣の人が怪訝そうに見ていることなんかお構いなしに、この状態が少しの間続く。



大分落ち着いてきたら、オレはいつのまにか眠りについた。

顔についた涙も拭かずに・・・。




・・・・・・




目が覚めると、すでに静岡の上空まで来ていた。


あと25分。




頭がすこしぼやーっとしていた。


まるで今までの宮崎での生活が夢の事のようで、少し不安な気分になった。



でも、左手を胸に当てたとき、その不安は一瞬にして安心に変わった。

そう、オレの胸には、貝の首飾りがある。


彼女といった海での思い出。



今までの事は夢なんかじゃなかったんだ。


今更になってちょっと心がスマイルになった。





あと15分。

もう東京だ。

飛行機の高度がどんどんと下がっていく。


すると、オレの廻りに座っている赤ん坊が次々と泣き出していることに気がついた。

オレの耳からは少なくとも、4つの声が聞こえる。


やはり、気圧の変化などを敏感に感じているのだろう。

親がいくらあやしても、その泣き声はとまらない。


「・・・・・・すごい。」


赤ちゃんの泣く姿を見て、オレは本当にそう思った。


泣きたい時に泣く。



なんて純粋なんだろう、赤ん坊は。

世間体を気にしてしまい、感情を抑えようとしているオレ。

なんてみっともない。

ステキな人間だ、赤ちゃんっていうのは。


オレの代わりに泣いてくれているような気がしてしまい、高ぶった感情はほとんどなくなってしまった。






14時。

自宅に到着する。


パソコンルームに行き、久しぶりのブログサーフィンをしていると、彼女のブログが更新されていていることに気がついた。

ここで、あの時の感情がまたよみがえることになるとは思わなかった。





今、昨日彼と一緒に来た海にいます。


思い出すのは、どれも楽しいことばかり。



でも、

さっきまでいた助手席には誰もいなくて・・・


手を伸ばせばあったはずの手がもうなくて・・・


涙が止まらなくて、サングラスの下で、涙がたくさんあふれた・・・

(彼女のブログより抜粋)






・・・・・・ずるいよ、そんな日記。



そんなたそがれている姿をイメージするだけで、

もうオレは崩壊してしまう。。。




オレは、晴れ男だ。

大切な日は、たいてい太陽が見える。

今回も、「車を洗うと次の日は雨が降る」という雨おんな彼女の悪いパターンを見事にぶち壊した。



でも、

こころの雨ばかりは、いくら頑張っても、晴れには出来ない。


布団にもぐりこみ、まくらをぬらすことがまた始まった。




(次が最終話です。)

<ここをクリック!>