世界文学大系
古典劇集
ル・サージュ
ル・サージュ
チュルカレ(1078)鈴木力衛 訳
第一幕 第一景 男爵夫人 おまえの考えもたしかに一理あるようよ、マリーヌ。あたしはあの人を利用してやろうと思っているの。 マリーヌ 結構でございますわ。さきざきのことを考えておかねばなりません。今のうちに何かしっかりした地位を作っておおき遊ばしませ。結婚の時までにチュルカレさんの気前のよさをせいぜい利用なさることですわ。あの方が約束を守らないからって、世間じゃ大して問題にしないかもしれませんが、その埋め合わせに債権やら、現金やら、宝石やら、無記名証券やら、年金の契約書やらをたんまりせしめておおきになれば、十分元が取れるというもんですわ。そうこうするうちに、気まぐれな、金回りの悪い貴族でも見つけて、正式にご結婚なされば、奥様の評判にも傷ひとつつかないですむでしょう。 第五幕 第十三景 ジャコブ夫人 兄が債権者につかまっているんですって! 血も涙もないひとだけれど、災難には同情するわ。あの人のために出来るだけ骨折ってみましょう。あたし、どうやらあのひとの妹だという気がしてきたの。 チュルカレ夫人 あたし、あのひとをつかまえてうんとどやしつけてやるわ。あたし、あのひとの妻だという気がしてきたの。 第十六景 リゼット ねえ、フロンタン、あたしたちはどうしたらいいの? フロンタン うまい話があるんだよ。頭の働きが何よりの宝さ。図太く立ちまわってまんまといっぱい食わせてやったよ。おれは所持品検査など、されやしなかったんだ。 リゼット じゃ、小切手は持っているの? フロンタン もう現金は受け取って、安全な場所においてあるのさ。おれは四万フラン持ってるよ。おまえがこんなケチ臭い金で満足するというのなら。そろそろ堅気な暮らしに入ろうと思うんだが。 リゼット 賛成だわ。 フロンタン チュルカレさんの時代は終わり、おれの時代が始まるのさ。