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そしていよいよトークを披露する日がやってきた。
アポが取れた先に向かう車の中で、一人ロープレをして確認をした。
ノートに書き出した約2万文字におよぶ社長のトークは、ほぼ完璧に頭の中に入っている。
さあ、お客さんの前でちゃんと話すことができるのか?
話せたとして、丸暗記した社長のトークで売れることができるんだろうか?
アポが取れたお宅には、30分前に到着。
表札に書いてある名前も合っている。
こうやって時間に余裕を持つと、気持ちにも余裕が持てる。
もう頭の中にはしっかり社長のトークがインプットされているが、念には念を入れてもう一度ノートを確認した。
そして、いよいよ約束の時間になり、お客さん宅のインターフォンを押した。
「こんにちは~、今日14時にお約束しましたベスト学習社の井上です」
「お待ちしてました」
アポはシッカリ伝わってる。
話は聞く態勢になっているので、暗記したトークを確実に伝えることさえすれば、きっと売れるんじゃないか。
緊張しながらも平静を装ってトークを始めた。
「今日は翔太くんが中学校で使用する教科書をお持ちいたしましたので、これをご覧いただき、今後の塾や教材選びの参考になさってください。
また、興味がある方のみ、私たちが扱っている教材についてもご紹介する予定ですので、安心してお聞きください」
(う、うまく言えたぞ!)
「はい。わかりました」
「ありがとうございます。
ところで翔太くんが中学生になったとき、お母さんとしては、勉強についていけるか心配だとか、あまり心配ないとか、どんな感じでしょう?」
「やっぱり中学生にもなると難しくて、私じゃ勉強教えられないですからね」
「確かにそうですね。
お母さんが中3で勉強してたことが今は中1でやってますからね。そうするとやっぱり難しくなった勉強をカバーするのに、塾とか進〇ゼミとか何か考えていることはあるんですか?」
「はい、家庭教師をお願いしようと思ってます」
「か、家庭教師ですか…
(家庭教師は台本になかったぞ。う~ん…この場合、何を言えばいいんだ…。困ったぞ…)
いや、家庭教師もいいかもしれませんが、どうなんでしょう?
自宅学習の習慣が身に付かないと…
(何言ってるかわからなくなったぞ…)」
「そういったところも、その家庭教師の方がちゃんと見ているというのでお願いしたので~」
「いや、そうじゃなくてですね、そのぉ、自宅学習の習慣を身に付けるには、学校から宿題が出たときに、どうやるかが問題になりまして、そのぉ~」
「まだ学校が始まってないので、翔太も私も何もわからないので、中学に入ったときにまたお願いできますか?」
「いや、そのぉ~。このご案内は今日だけになりますので~」
このお客さんとは、わずか5分でTHE END。
台本にない展開になったため頭の中が真っ白になってしまった。
この続きの発行はまたいつか。
乞うご期待!!