埼玉医科大の一次試験には小論文があります。その解答例と解説。
2024年(令和6年)埼玉医科大学 後期 小論文
問1 この文章からわかる範囲で、妙子の家族の構成員について120字以内で説明しなさい。
【問題分析】
① この文章からわかる範囲 ➡ 知識問題ではない。読み取れることを材料にする。
② 妙子の家族の構成員について ➡ 家族関係を中心に。
③ 120字以内で説明 ➡ 二文程度が望ましい。
④ 時間配分 ➡ 他の問題の関係から、できれば15分で書き終えたい。
【書き方】
① 長めの下書きを書く…家族関係のみだと字数が余る。下書きは無茶苦茶でよい。
② わかることを盛り込む
③ 120字以内で説明 ➡ 二文程度が望ましい。
【構想メモ=下書き】…叙述の順序
妙子…こいさんと幸子から呼ばれている(関西弁)、二階で幸子の化粧の手伝い、一番年下。
雪子…身支度が整い、階下で悦子のピアノをみている。
幸子…30歳を超えているが、若々しい。女ざかり。
悦子…子供。幸子が母。雪子になついている。ピアノの練習をしている。
・幸子、雪子、妙子の三人姉妹がそろって二時に始まる演奏会に行く準備をしている。
・知識で「細雪」が四人姉妹の話と知っている人は、それを入れないほうがよい。
【長めの下書き】
時代は昭和あたり。関西の上流階級の家庭での話。妙子はこいさんと幸子から呼ばれ、二階で幸子の着物の準備と化粧の手伝いをすることになった。雪子は身支度が整い、幸子の子供である悦子のピアノの練習を見ている。悦子は雪子がお気に入り。幸子、雪子、妙子の三人姉妹で二時に始まる演奏会に行く準備をしている。幸子は妙子と雪子のお見合いの話をしている。妙子はおませな感じ。幸子と雪子はお嬢様そだちのせいか、世間しらずのよう。幸子は30歳を超えているが、若々しく女ざかり。 (227字)
【シバタ解答例】
時代は昭和あたり、関西の上流家庭。こいさんと呼ばれている妙子には、幸子と雪子という二人の姉がいる。三人は和服で演奏会に行く準備をしている。幸子には悦子という女の子がいる。妙子と幸子が雪子のお見合いの話をしている。幸子は30歳を過ぎている。
(119字)
補足
たしか高校か大学時代に『細雪』は夢中で読んだ覚えがある。「なんということないのに、ものすごい魅力」という印象。物語というより言葉の誘因力。そして、どМの谷崎には、とても惹かれる。『春琴抄』が私にとってはやはり一番なのかな。
『細雪』は映画にもなっているし、学校では文学史で習う人もいるだろうから、4人姉妹というぐらいは知っている人もいるかもしれない。その人はかえって迷うかも。設問条件が「この文章からわかる範囲」だから、4人姉妹と書かない方が賢明。
説明のコツは要約と同じ。「使え、削れ、切れ、つなげよ」という要旨スローガン通り。詳しくは私の問題集『現代文解法の新技術』(桐原書店)を参照してください。
● 埼玉医科大が要求しているのは、読解能力と説明能力。書いてあること、起こっていることをあるがままに受け取る。現象を先入観なしに受け止める能力は医師として必要な力。そして、いかにわかりやすく日本語で説明できる能力。これも医師にとっては不可欠な能力。わかりやすい文を書くためには、一文を短くするのが肝心。60字以内がめど。一文で書く人がいますが、それはやめた方がよい。
参考 ( Wiki より)
大阪船場で木綿問屋を営む蒔岡家の4人姉妹、鶴子・幸子・雪子・妙子の繰り広げる物語。三女・雪子の見合いが軸となり物語が展開する。
蒔岡家
· 鶴子 - 長女、本家の奥様
· 幸子 - 次女、分家の奥様 -「ごりょうんさん」(船場言葉「御寮人さん」= 若奥様) 谷崎の妻・谷崎松子がモデル。
· 悦子 - 幸子と貞之助の娘
· 雪子 - 三女 - 「きやんちゃん」(「雪(ゆき)姉ちゃんがつづまった言葉)
· 妙子 - 四女 -「こいさん」(船場言葉「小娘さん」= 末娘)
問題文を再掲
1 次の文章は、谷崎潤一郎『細雪』の冒頭部分である。長編小説の導入として大切な役割を果たしている。この文章を読んで、後の問い(問1)に答えよ。
「こいさん、頼むわ。―」
鏡の中で、廊下からうしろへ這入って来た妙子を見ると、自分で襟を塗りかけていた刷毛を渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見据えながら、
「雪子ちゃん下で何してる」
と、幸子はきいた。
「悦ちゃんのピアノ見たげてるらしい」
―なるほど、階下で練習曲の音がしているのは、雪子が先に身支度をしてしまったところで悦子に掴まって、稽古を見てやっているのであろう。悦子は母が外出する時でも雪子さえ家にいてくれれば大人しく留守番をする児であるのに、今日は母と雪子と妙子と、三人が揃って出かけると云うので少し機嫌が悪いのであるが、二時に始まる演奏会が済みさえしたら雪子だけ一と足先に、夕飯までには帰って来て上げると云うことでどうやら納得はしているのであった。
「なあ、こいさん、雪子ちゃんの話、又一つあるねんで」
「そう、―」
姉の襟頸から両肩へかけて、妙子は鮮かな刷毛目をつけてお白粉を引いていた。決して猫背ではないのであるが、肉づきがよいので堆く盛り上っている幸子の肩から背の、濡れた肌の表面へ秋晴れの明りがさしている色つやは、三十を過ぎた人のようでもなく張りきって見える。
「井谷さんが持って来やはった話やねんけどな、―」
「そう、―」
「サラリーマンやねん、MB化学工業会社の社員やて。―」
「なんぼぐらいもろてるのん」
「月給が百七八十円、ボーナス入れて二百五十円ぐらいになるねん」
「MB化学工業云うたら、仏蘭西系の会社やねんなあ」
「そうやわ。―よう知ってるなあ、こいさん」
「知ってるわ、そんなこと」
一番年下の妙子は、二人の姉のどちらよりもそう云うことには明るかった。そして案外世間を知らない姉達を、そう云う点ではいくらか甘く見てもいて、まるで自分が年嵩のような口のきき方をするのである。
(「細雪」谷崎潤一郎著、新潮文庫より抜粋) 青空文庫より引用しました。
