初候補で直木賞受賞の快挙-木内昇 | 幸せ信州

幸せ信州

◎幸せ社会をめざして社会デザイン
 ・公民一体の地域づくり
◎良い社会人であれ
 ・ウェルビーイング:心身ともに良い状態
 ・良い状態を持続的に維持
 

初候補で直木賞受賞の快挙を成し遂げた木内昇
>>>受賞作『漂砂のうたう』


 直木三十五賞の第144回選考会で,戦後初の5回連続ノミネートとなった道尾秀介の『月と蟹』,そしてデビュー6年で初の候補となった木内昇の『漂砂のうたう』の2編の受賞が決まった。

 『漂砂のうたう』の著者・木内昇は,『東京の仕事場』ギャップ出版,『新・東京の仕事場』平凡社などを著している女性。選考会の初回投票で選考委員がひとりも「×」をつけなかったという高評価で直木賞を受賞。

 『漂砂のうたう』は,大政奉還,明治維新という大きな変革が訪れた直後の時代の空気と,その時代を地道に生きる人々の息吹を感じさせる作品。また,この時代の舞台である明治10年ごろは,今の時代に似ているとも思える。

 主人公の定九郎は武士の出。明治維新で行き場を失い,身分を偽って遊郭の番台に勤める。住まいもなく,あちらの女,こちらの女,賭博場などを泊まり歩く,浮き草人生。将来への希望も夢も持たない定九郎も,福沢諭吉に代表される新思想が頭をよぎるが,ただ流されるがままに生きる。変化に取り残されつつある焦燥感とあきらめの中で,定九郎は人気の花魁(おいらん)・小野菊を巡る陰謀に巻き込まれていくが…。

 底辺であがくことなく日常をすごす定九郎と,囲われた身である花魁に身を置きながらも凛として己を貫く小野菊の生き方は好対照。

 受賞会見で木内は「明治10年ごろのよりどころのなさは今の時代に近いのかもしれない」とし,「現代を生きる読者と地続きに感じられる時代小説を書き続けたい」とも抱負を語った。

 変化の時代といわれるが,閉塞感に満ちたブレークスルーできずにるいまの時代状況は,遊郭に縛られている使用人や花魁とさほど変わりがないのかもしれない。「変わりたい」と思いつつ一歩を踏み出せない定九郎の情けない姿,そして変化を生み出していく小野菊の勇姿は,多くの読者の共感や親しみを呼ぶであろう。

http://atq.ad.valuecommerce.com/servlet/atq/gifbanner?sid=2219441&pid=879474399&vcptn=geoc%2Fp%2FNFw7_VS6ltyysJCuye2lJtCk