アカデミー賞で「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が複数最優秀賞を受賞。
「ミシェル・ヨーは白人以外で史上初の最優秀主演女優賞」。
そう考えると単にもろ手を挙げて称賛する気に自分はなれないです。
「今までアカデミー賞は何を見てきたんだ。
なぜアフリカ系、アジア系、ヒスパニック、インド系、中東系…白人以外の表現者がどれだけ素晴らしい表現をしてきたか評価してこなかったのか」
そう思うと無性に腹が立って。
2015年からアカデミー賞は過去を反省し多様性を重視する傾向になったそうですが、主演女優賞においては初めてでしょ?
遅すぎるんだよこの野郎!とムカムカします。
100回近くやってて白人以外に初めて最優秀主演女優賞授与したって恥ずかしいことだと思います。
今まで見る目がなかったと猛省してほしい。
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」からはアジア人の最優秀助演男優賞も。
キー・ホイ・クァン。
「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」、「グーニーズ」でお馴染み。
クァンは子役で大成したのち俳優業ではなく制作側に活動の場を移します。
彼自身のスキルの問題ではなく「アジア系」であることが俳優としてのキャリアの妨げになったのは事実だと思います。
そんな彼が紆余曲折を経て最優秀助演男優賞!
同じアジア系であるのはもちろん同世代なのですごい嬉しかったな~。
インディ・ジョーンズ、グーニーズ直撃世代です。
子役時代の大活躍を良く知ってますから今回の受賞胸いっぱいになりました。
クァンの最優秀助演男優賞はアジア系俳優で37年ぶりの受賞。
ヨーと同じく「100回近くやっててやっと2回目か!」とムカムカします。
そう小一時間怒りたくなりますが、
37年前に最優秀助演男優賞を受賞した偉大な俳優の話をしなければいけません。
ハイン・S・ニョール。
カンボジア出身。
カンボジア戦線を取材したジャーナリストと現地ガイドの友情、二人の視点から捉えたカンボジア戦線の凄惨さを描いた作品「キリング・フィールド」。
ニョールはこの作品で現地ガイド兼通訳のプランを演じ最優秀助演男優賞を受賞しました。
この作品実話に基づいています。
舞台は1970年代のカンボジア戦線。
ポル・ポト派が支配していた時代の話。
ポル・ポト派は知識層を次々粛清したと言われています。
外国語、医学、科学に長けているというだけで反乱分子とみなし粛清する理不尽さ。
眼鏡をかけているというだけで「勉学に勤しんでいる」とし無感動に処刑したとも聞きます。
むちゃくちゃです。
狂っています。
プランを演じたニョールは元々医師でした。
医師であることを隠しながら息を潜めて暮らし国外に脱出。
実生活で凄惨なカンボジア戦線の最中にいた人です。
そのニョールが「キリング・フィールド」においてプランを演じている。
「真に迫る」なんてものじゃないです。
知識層であることを必死に隠すシーンがあるのですが、ニョール自身の体験したことそのものです。
あの緊張感、恐怖は体験した人でないと出せないでしょう。
そしてニョールの表現力が素晴らしかったから心にくるのだと思います。
難民キャンプに到着したときのプランの言葉では表しがたい表情、今思い出しても涙が出ます。
私は1985年の夏、地元の映画館の二本立てで見ました。
「ポリス・アカデミー2」と同時上映というとんでもない組み合わせだったと思います。
ポリアカ目的で行きましたが「キリング・フィールド」に完全に心奪われました。
それまで見てきた多くの欧米の映画におけるアジア人は嘲笑されるコメディ・リリーフ、ステレオタイプ、残忍な敵役として描かれることが多かった。
自分がアジア人でありながら「どうせそんな風に描くんでしょ」とある意味醒めてました。
そんな気持ちが「キリング・フィールド」でぶっ飛びました。
随所で見せるニョール演じるプランの「ありのまま」のアジア人の姿に心打たれました。
この映画にケチをつける人もいるんだけども、私はニョールの熱演に圧倒されます。
本当にすごい。
「キリング・フィールド」多くの方に見ていただきたい作品です。
ニョールは欧米の「ファインダー」から通した作品で誰も文句つけられない表現をしたアジア人のパイオニアだと思っています。
「キリング・フィールド」音楽もよかった。
「Tubular Bells」など歴史的名作で有名なマイク・オールドフィールドが担当してます。
素晴らしいサウンドトラック。
エンディング・テーマ。
フランシスコ・タレガの「アルハンブラの思い出」をアジア風アプローチでアレンジ。
泣けます…。
ハイン・S・ニョール、忘れらない俳優です。