大昔の私が子供の頃の記憶。
デパートの地下か上の階で催されていたなにかの物産展にて。
私は母に連れられていた。
かなり小さい頃だったと思う。就学前ではなかったかと思う。
そういえば母はよく、量り売りの何かを指でつまんで味見して買っていた。
母だけじゃなく、周囲の主婦たちでそうやる人は多かったと記憶している。
この記憶は私がもう少し大きくなってもシーンとして記憶に残っているので、
そのような試食はわりと当時は普通だったんじゃないかと思う。
今の世の中ではこういうことをやる人はあまりいない。
というのも、試食させるのであればプラスティックの小皿があり、
爪楊枝なり同じくプラスティックのフォークやスプーンなりが添えられているからだ。
当時はそういったものを利用した試食はなかったんじゃないかと思う。
なので味を見るには直で指でつまんで食べていたんじゃないかと思う。
しかし、ある時-----
母は、美味しければ買おうと思っていたんだろうがある佃煮か何かをつまんで食べた。
樽に山盛りにされて量り売りされているものだ。
するとその佃煮売りのおじさんの怒号が響いた。
「北海道の客はどいつもこいつも黙って食いやがる。それ売りもんだ!泥棒と同じだよ!」
と。
母は笑って「食べなきゃ味わからないじゃない?」みたいなこと返していたと思うが
そのおじさんの怒号は幼い私をびびらせるに十分だった。
その後、デパートで試食しようとする母を私はそのたび止めたものだ。
たぶんそのおじさんは◯◯県物産展であちこちの百貨店をまわってる人なんだろう。
北海道のデパートで佃煮を売るとき、
北海道の人が黙って売り物の佃煮の山から指でつまんで食べて
買うこともあったろうし黙って去ることもあったろう。
たぶん、本州のお客さんはこういうことは一切しなかったんだろう。
で、たまたまおじさんの怒りが頂点に達する寸前に母がその売場に差し掛かり、
運悪くおじさんの売り物をつまんでしまって怒号の餌食になったんだろう。
こんなことが心の傷となり、未だに対面販売コーナーはそそくさと通り過ぎる私だ。
対面販売の人と目があっただけで未だに肝が縮むのだ。
目を合わせないとしても、売り声を聞くだけで怖い気持ちが蘇る。
お一人様でけっこういろんなところにいけるが、
対面販売でのお一人様は今もハードルが高いのだ。