拝啓 あなたへ。
冬だと言うのに、今年はあまり雪が降りません。
如何お過ごしでしょうか。
つい先日、あなたの夢を見ました。
広い草原にわたしとあなただけふたりっきりで、風に耳を傾けている夢です。
とても、優しい夢でした。
あんな夢を見た朝には、あなたに逢いに行きたくなるのです。
だけれども、お互い遠い所に住んでいますし、仕事も忙しくてなかなか逢いに行けません。
寂しく、なります。
今晩、この手紙が届いたら、電話します。
あなたの声が、聞きたいです。
敬具
拝啓 あなたへ。
冬だと言うのに、今年はあまり雪が降りません。
如何お過ごしでしょうか。
つい先日、あなたの夢を見ました。
広い草原にわたしとあなただけふたりっきりで、風に耳を傾けている夢です。
とても、優しい夢でした。
あんな夢を見た朝には、あなたに逢いに行きたくなるのです。
だけれども、お互い遠い所に住んでいますし、仕事も忙しくてなかなか逢いに行けません。
寂しく、なります。
今晩、この手紙が届いたら、電話します。
あなたの声が、聞きたいです。
敬具
ミナは平気でした。
友達がいなくても
ヨウちゃんが居たから平気だったよ。
ミナが具合悪いとき
なかなか学校に行けなくて
なかなかヨウちゃんに会いにいけなくて
悲しかったです。
ミナがあんまりにもしゃべらないから
ヨウちゃんはめんどくさがるかなって
そう思ったけども違いました。
ヨウちゃんは、しっかりあたしの気持ちをわかってくれて
それからにっこり笑ってくれました。
あたしはそれが嬉しくて、あたしも笑いたくなったんだ。
あの日ミナがヨウちゃんにスキって言えた事
嬉しかったな。
恥ずかしかったよ。
どきどきした。
好き、でした。
ヨウちゃんのこと。
一緒に高校卒業できて良かった。
本当に。
明日から、ヨウちゃん大学生だね。
もう、高校生じゃないんだね。
それはあたしもか。
もう少し元気になったら、ヨウちゃんとどこか遊びに行きたいな。
海を見に行きたい。
明日散歩に出てみようかな。
天気が良くて、具合も良かったら、一人で。
この世界があたしをおいていかないように。
この街があたしをおいていかないように。
さあ、でかけよう。
君が死んでから、3年たった。
僕は君より3つも年とっちゃったよ。
どんどん、離れてく。
幼稚園からの腐れ縁だった君が。
大学までもが危うく一緒になるはずだった君が。
死んだ。
不慮の事故だったんだ。
高校の、卒業式の次の日だった。
元々体が弱かった君は、幼稚園も小学校も中学も休みがちで
だけどあの頃は出席日数なんて関係なくて、なんとかやってこれてた。
学校に顔を出す日のほうが断然少なくて、そのせいで友達も少なかった。
幼稚園の頃に仲良かった友達も、小学校に上がるときに地区の関係でばらばらになった。
僕は、君とずっと一緒だった。
住んでる家も2件先で、両親同志が共に仲良くて、一緒に旅行なんかも行った。
多分、僕らが産まれたときからそんな付き合いだったんだ、と思う。
だけど僕達が高校に上がってからは、家族ぐるみで旅行に行くことも無くなった。
彼女が数ヶ月にいっぺん位の頻度で学校に出てくると、事あるごとに僕と一緒に居たのを見て
周りからは、付き合ってんじゃねーの、そんなふうに茶化された。
そんなんじゃねーよ。幼馴染っつってんじゃん。
僕はいつもそう応えていた。
だけどそうじゃなかった。
僕は君が好きだった。
君はあまり喋らなかった。
僕と一緒に居るときでさえ。
だけど君は、僕を真っ直ぐに見て、何かを伝えようと必死だった。
僕はそれを汲み取った。
そして君は、消え入りそうな、だけどとてもやわらかい微笑を僕に返してくれた。
僕はこのやり取りと、君のその笑顔が好きだったんだ。
そしてもちろん、君自身のことも。
僕が言葉を必要としないあのやり取りで君の心を汲み取ったのと同じように
君も僕の本当の気持ちに、もしかしたら気付いていたのかもしれない。
そう思うようなことが何度かあった。
天気の良い温かい日に、君は体調がよくて学校が終るまで帰らずに居た。
その帰り、僕らは当たり前のように一緒に帰路に着き、同じ道を歩いて帰った。
燃えるような夕日がまぶしい日だった。
君の家のほうが学校に近くて、僕は君が玄関のドアを閉めるまで見送るようにしていた。
その日も君はゆっくりと微笑んでから僕に背を向けて玄関へ向かった。
そしてこれもまたゆっくりと玄関のドアを後ろ手に閉めた。
僕は安心して歩き出し、なんとなく空を見上げた後、彼女の家を振り返った。
そこには君が立っていて、僕が君に気付くとゆっくりと僕のほうへやってきた。
そしてこう言ったんだ。
あのね。ミナ、ヨウちゃんだけは、すきよ。
今考えるとあれは告白だったのかなって、僕はそういうところ鈍感なのかって恥ずかしくなるよ。
あの時僕は何時ものように笑って、わかってるってなんて、馬鹿みたいにきざな事言ったんだ。
僕の目を真っ直ぐ見詰めて、だけどとても小さな声で、君はそういったんだ。
僕はちょっと恥ずかしくなって、君の頭をぽんぽんと撫でて、じゃ、と言ってまた帰路についた。
それからまた君は学校に来なくなり、僕はまた、君のいない教室で平凡な授業を受け続けた。
そして月日は巡り、冬が来て、春が来た。
僕達は、高校を卒業した。
君が卒業できたのは、なんだかちょっと不思議だったけど、それ以上に、安心した。
君は、最後だからと言って、制服にしっかりプレスをかけてもらっていた。
だからなんだか、君だけは、新品の制服を着た入学式みたいに見えた。
式の帰り道、僕達は何時ものように一緒に歩いて帰った。
相変わらず君は喋らなくて、時折僕を見詰めては、消え入りそうな、だけどとてもやわらかい微笑を浮かべたんだ。
僕もそれを見て、小さく笑った。
それが、最後だった。
あまりにも突然すぎて僕は何がおきたかわからなかった。
両親から君の不法を聞いたとき、何かの冗談だと思ったよ。
だけど、本当だった。
僕の父と母も、君の死にとても悲しんだんだよ。
本当の、自分の子供のようにね。
卒業式の時の、少し恥ずかしそうにしていた君の制服姿が、悲しいよ。
僕の目に残った最後の君が、これからの僕達の自由に繋がる最初の一歩目の日だなんて。
それに、僕の口から、ちゃんと君に好きだと言えなかった。
出来ることならば、君のそばにずっといたかった。
だけどさ。
僕は思うんだ。
僕達には、言葉以上のものがあったんだ、って。
きっと君はもう、僕に言っていたんだよね。
ヨウちゃん、好きだよって。
いつか必ず、君にちゃんと言うよ。
だからそこで、ちゃんと僕のこと、待ってて。
お身体が弱いと謂うのに、今日は気分が良いからと謂って、貴方は軒先に出て流れ行く雲を見上げていました。
今日はお天気も良く、薄水色に恵まれた空に、ぽつりぽつりと浮かぶ雲がなんとも気持ちよさそうでした。
私は日向で温かくなった貴方の横に座り、同じように晴れ渡る空を見上げました。
とても幸せな気持ちでした。
貴方が身体を壊したのはもうかれこれ数年前。
身体を壊すまでは、日曜になると屋根に昇って瓦の修理をしてくれたり、庭木弄りをよくしていました。
仕事場で突然倒れたと聞いて病院まで駆けつけたところ、お医者様から病状を聞いて私は心臓が止まる思いでした。
末期癌だ、と。
まだ医学の発達していない時世でしたし、入院するだけのお金もありませんでしたから、一先ずは安静に。
そして、お医者様から頂いたお薬を続けて飲むようにとのことでした。
あれから何度となく病状の悪化と回復を繰り返し、奇跡的にも貴方はもう数年もこうして生きてくれています。
幾度と無く覚悟を決めた私の決心を何度も裏切る貴方に、これはもう、神様があなたに生きてもらいたいに違いない。
そう思うようになりました。
いつ途絶えるかわからない命です。だけどこうして確かに私の横で波打つ心臓の音は存在するのです。
貴方には良く晴れた空がとても似合いますね。
少し痩せてすっきりとした横顔が、青空にむかってそっと微笑む瞬間が私は好きでした。
その貴方の目にはきっと、生きることを赦してくださった神様が見えていたに違いありません。
あなたは覚えているでしょうか。
あの夏の夕暮れを。
秋が間近まで迫るすこし肌寒くなってきたあの頃。
私は貴方の手を引いて、父の待つ家路を急いでいました。
あなたはたいそう熱がりで、そろそろ長袖の上着を着なさいと行った私に
まだ暑いから、と、上着を返したのですよ。
貴方は覚えていないでしょうけれど、あの日は本当に肌寒かったのです。
貴方の手はしっとりと汗ばみ、何度もわたしから手を離そうとしましたね。
嫌がるあなたの手を離すまいと、わたしはしっかりと貴方の手を握っていました。
それもそうと、あの頃は近所で通り魔が多く、隣の家の娘さんも通り魔の被害にあったのですよ。
物騒なご時世でした。
わたしは貴方をそんな凶悪な通り魔の手になどかけたくない一身で、毎日毎日学校への送り迎えを
どんなに大雨が降ろうと、どんなに大風が吹こうと、続けたのです。
あの日貴方は私に何と言ったか覚えていますか?
まだ幼いながらも貴方は私にこういったのですよ。
「お母様、私を産んでくださって、ありがとう。」
貴方は気付かなかったでしょうけれど、日も落ちかけた帰り道、私は泣きました。
貴方を産んでよかったと、たいそう幸せな気持ちになって泣きました。
あなたは覚えているでしょうか。
あの冬の帰り道を。
年老いた私の手を引いて、貴方は家路を急いでいましたね。
貴方には二人の子が出来て、心優しい旦那様も出来たというのにいつまでも私を気遣ってくれていましたね。
あの日はとても寒い日で、貴方は私に身体が冷えると悪いからといって暖かい上着を渡してくれました。
貴方も身体を冷やさないようニねと、二人で暖かい服装で出掛けましたね。
私も年老いて貴方と貴方の旦那様の手を借りなければ立ち上がることも難しくなりました。
歩くことは出来ても、あなたの手を借りて歩かないことには散歩も難しかったわね。
あの日私は貴方の暖かい手につかまりながらこういいましたね。
貴方は覚えているかしら。
「産まれてきてくれて、ありがとう。」
貴方は隠そうともせずに私の前で涙を流しました。
そしてそのあと、にっこりと笑って、ありがとう、と言ったのですよ。
日が落ちきった帰り道、私はまた貴方に気付かれないように泣きました。
そして今。
病室のベットに横たわり最期を迎えようとしている私の手を、貴方の暖かい手がふんわりと包んでくれています。
いくつになっても熱がりが治らないから、ずっと手を握ってくれている貴方の手はやっぱりしっとりと汗ばんでいますよ。
今日は隠さず泣いてもいいかしら。
貴方の涙を見ていたら、私まで悲しくなってしまいました。
そして最後の言葉になるかもしれないけど、聞いてくれるかしら。
ありがとう。
幸せに。