活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~ -8ページ目

三國屋物語 第53話

 篠塚家には先祖代々受け継がれてきた領地がある。現在、そのほとんどは農地で、その農地を仕切っているのが仙太郎(せんたろう)という男だ。真面目で人情にあつく、農民たちには大旦那(おおだんな)と呼ばれ慕われていた。仙太郎には五人の子供がおり、その末っ子に、貴(たか)という十六才になる娘がいた。この貴、村で一番といわれるほどの美人であった。村には様々な行事があり、行事によっては篠塚家の人間も顔をださなければならない。そんな時、篠塚は父とともに上座にすわらされた。篠塚家の者が顔をだすのは、ほとんどの場合、葬儀の時である。なので、篠塚が貴に会ったのは数えるほどしかない。
 ある日のこと、貴の父である仙太郎が篠塚の屋敷を訪れてきた。いつも柔和な四角い顔が、いまにも泣きだしそうである。なんだろうとうかがっていたら、その夜、篠塚は父の重之助に呼ばれた。篠塚、十七歳の時だった。
「あの仙太郎が父上に泣きついてきたと」
「娘のことでな」
「娘……。たしか、お貴と申しましたか」
「おお。そのお貴だ」
「そのお貴がどうかいたしましたか」
「それがの。少々厄介な……いや……他愛もないというか……いや……どういえば良いかの」
 まるで要領を得ない説明だ。篠塚はわずかに眉をよせた。

「その……なんだ。お貴は水揚(みずあ)げが近いそうだ」
 水揚げというのは、現代でいえば処女を失うことである。


 十三と十六 ただの年でなし
 十六で娘は 道具揃(どうぐそろ)いなり


 村では娘仲間が一人前の女として身体が成熟したと認めるまで男たちに触れさせない。そして、水揚げの相手は充分に吟味(ぎんみ)された三十歳前後の壮年の男が選ばれる。相手の男は年齢もさることながら、その娘の人生において後々まで相談相手となりうる男でなければならないという。

「まさかとは存知ますが、父上に貴の水揚げの相手を願いでてきたとか」
 篠塚が冗談まじりにいった。

 村の習慣には階層における差別が歴然として存在している。排他的でもあることから、当然、娘の水揚げの相手は、おなじ村の男の中から選ばれるしきたりになっていた。つまり武家である篠塚家の男が貴の水揚げの相手になることは、ありえないのだ。

 重之助が口をすぼめた。

「そのまさかだ」

「それはまた……」

「勘違いするな。おまえだ」
「は」
「おまえに相手をしてもらえぬかと」
「わたくしに」
「おまえでないと嫌じゃ、と」
「仙太郎が、そう申しておるのでございまするか」
「そうではない。娘だ。お貴がそういっておるのだそうだ」
「お貴が……」



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「三國屋物語」主な登場人物

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