三國屋物語 第52話 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

三國屋物語 第52話

 山岸が束の間、遠い目をして楽しげに話しだした。
「まだ元服前のことだ。二人で何度か村の祭りにでかけたことがあった」
「山岸、その話はよせ」
「おおそうか。では、どの話なら良いのだ」
「………」
 篠塚が舌打ちして引きさがる。瞬は好奇心に胸をはちきれそうにしながら身をのりだした。
「農民たちの祭りなので本来我らは出られぬのだが、まあそこは子供のこと。二人でしめしあい夜を待って屋敷を抜けだした」
「お祭りは夜もずっとつづくのでございますか」
「朝まで夜通し踊り明かすのだ。田舎のことで派手な音曲もなく屋台も少ないが、それはそれは賑(にぎ)やかでのう。ある年のことだ。踊りつかれた俺たちは、そろそろ家に戻ろうと提灯(ちょうちん)の灯りをたよりに夜道を歩いていた。すると、いきなり脇から白い手がのびてきた。みると村の女たちが三人。袖を引かれるままついていくと、しばらく歩いたところで抱きついてきた」
「あの……。それは、どのような趣向なのでございましょう」
 瞬が目を丸くする。山岸と篠塚が顔をみあわせ失笑した。
「つまり、男と女のそれよ」
「まさかとは存じますが。夜道で知らない女子三人を相手に、でございますか」
「そのまさかだ」
「なんと……」
「見ず知らずの相手と一夜限りの情を交わす。古くからある村の風習だ」
 篠塚が静かにいった。
「つかぬ事をうかがいますが」
「なんだ」
「山岸さまは、お二人とも、まだ子供だと仰っておりました」
「十三の年だったか……」
「十三の年で、お二人ともすでに女子(おなご)を知ってらしたという事でございましょうか」
「まあ、そうだが」
 篠塚が当然といった様子で答えてくる。
「で、それから五人で仲良く、で、ございましょうか」
 瞬がげんなりとして先をうながす。山岸が、かぶりをふった。
「そういきたかったのだが、女の一人が篠塚に気づいてしまってのう。篠塚家の若様じゃ、いうて騒ぎだした。そこから修羅場(しゅらば)よ」
「と、申されますと」
「若様の相手をするのは、わたしじゃ、いうて、喧嘩(けんか)がはじまった」
「喧嘩……」
「女の喧嘩は恐ろしいぞ。髪をつかむわ、ひっ掻くわ、取っ組みあっているうちに着物は脱げるわで色気もなにもあったものではない。恐ろしゅうなった俺は篠塚の手を引き一目散に逃げだした」
 篠塚が長息していった。
「おまえは面がわれていなかったから良い。俺なんぞ、しばらく屋敷から出ることもできなんだ」
「仕方がなかろう。あのまま巻き込まれていたら骨まで喰われておったわ」
 腹の底から笑いがこみあげてきた。十三才の篠塚が屋敷にいて、こっそり村の女たちの様子をうかがっている姿が目に浮かぶようだ。
 瞬が大いに面白がっていると知ると山岸は気をよくしたようだ。嫌がる篠塚をなだめ、さらに別の話もきかせてくれた。



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「三國屋物語」主な登場人物

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