三國屋物語 第20話
自分に似た男娼。あまり気分の良いものではない。世にも美しい少年と、でっぷりとした、たこ入道。瞬は想像を逞(たくま)しくして、やがてげんなりとした様子で話題を変えた。
「ところで、今日はどのような品をお求めでございましょうか」
「豪華な振袖が欲しいのだけれど。ぱあっと華が咲いたような。ああ。裾は膝のあたりで切っちまっとくれ」
どうやら贈る相手は男であるらしい。茶屋で羽織代わりに着させようというのだろう。とうてい理解できない世界だった。
「それは、ようございました。豪華(ごうか)で艶(あで)やかな柄が入ったばかりでございます」
瞬は頭の中で算盤(そろばん)をはじきながら反物(たんもの)へと手をのばした。
その夜、風呂をつかったあと部屋でくつろいでいると、篠塚が声をかけてきた。
いそぎ襖(ふすま)をあける。寝間着にきがえた篠塚がそろりと部屋にはいってきた。
裾(すそ)をわり胡坐(あぐら)をかきながら、
「新選組のことなんだが」
と、前置きもなく話しだす。
このさりげなさが嬉しい。まるで新しい兄を持ったような気分だ。瞬は嬉々として身をのりだした。
「なんでございましょう」
「稽古は竹刀(しない)をつかっているのか」
「さようでございます」
「面はつけているか」
「つけていらっしゃる方もいれば胴だけの方もいらっしゃいます」
「そうか」
「永倉さまとの仕合(しあい)のことでございますか」
「ああ。沖田が新選組で一番強いといっていたのだろう」
「はい。沖田さまが仰るんですから、そうでございます」
「気が乗らぬな」
瞬は、ついと目を細め口角をひきあげた。
「なんだ、その目は」
「いえ」
「俺が恐れをなしていると言いたげだが」
「滅相(めっそう)もございません」
「その通りだ」
篠塚があまりに素直に認めてきたので、瞬は、
「は?」
と、頓狂(とんきょう)な声をあげた。
「道中、新選組は人斬りの集団だときいた」
噂はただしい。返り血をあびた新選組の隊士たちが談笑しながら通りを闊歩(かっぽ)していく姿を、瞬はいくどか目にしている。京の治安を守るという大儀があるとはいえ、やはり心象の良いものではなかった。
「ですが。土方さまは違います」
「いやに肩入れするんだな」
「あの方は思慮ぶかく本当にお優しい方でございます」
いつも意気揚々(いきようよう)と屯所に引きあげる隊士の中にいて、ひとり土方だけが、死者を弔(とむら)うかのごとく悲哀に満ちた面持ちで歩いている。土方は隊士に恐れられているというが、瞬には土方が無理をしているように思えてならなかった。
「俺は人を斬ったことがない」
「………」
「連中からみると、ひどく鈍(なまく)らな田舎(いなか)剣法だと思われるのだろうな」
篠塚が微苦笑して膝を打った。
「さてと。寝るか」
この人は強い……。
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