活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~ -44ページ目

三國屋物語 第24話

「なんでございましょう」
「どうして俺の部屋に」
「店の者に見つかって騒ぎになっても困りますから」
「だったら、このまま帰ってもらったらいいだろう」
「藤木さま、今夜の宿は」
 藤木が首を横にしてきた。
「無いと仰ってます」
「おまえな」
「お嫌でございますか。では、篠塚さまはわたくしの部屋に」
「どうして、そうなるんだ」
 嫌がる篠塚をなだめ藤木を篠塚の部屋に通すと、瞬は篠塚を伴い、ふたたび部屋にもどってきた。
「後から何か盗られたといっても俺は知らんぞ」
 後ろ手に障子を閉めながら篠塚がぶっきらぼうな声をあげた。手にはしっかりと刀をさげている。
「藤木さまなのでございますが。新選組に追われているようなのでございます」
「新選組に……?」
 瞬がこくりとうなずく。篠塚はその場に胡坐(あぐら)をかくと、いくぶん上目遣いに瞬をみてきた。
「なにを考えている」
「え」
「連中に睨まれたら厄介なことになるぞ」
 瞬は悄然(しょうぜん)としてうつむいた。
「なにがあった」
 瞬は記憶をたどり事細かに篠塚に話してきかせた。もちろん、唇を奪われたなどとは口が裂けてもいえない。篠塚がいつから二人を見ていたのかは知らないが、藤木が念友と瞬とを間違えたのだと説明した。
「間違えた……。しごく仲むつまじくみえたが」
 篠塚の言葉に耳まで紅くなった。
「最初は、おしいり強盗かもしれないと……。とっさのことでございましたから」
「それに好みの相手だったか」
「好み?」
「とっさの事とはいえ、見も知らぬ男に抱きつかれたら女子(おなご)でも抵抗するぞ」
 瞬が押し黙る。

 他でもない、この篠塚にいわれた事がどうしようもなく悔しかった。
 篠塚の目に自分はどのように映っているのだろう。そもそも出会いそのものが悪すぎたのだ。相手が複数であったとはいえ男に襲われ裸同然の姿でいるところを救われた。さぞひ弱で情けない男に見えたことだろう。
「わたくしは……女子(おなご)より臆病なのでございます」
 無理に笑ってみせる。穴があったら入りたい心境だった。
 いい過ぎたと思ったのだろう。篠塚が、

「すまぬ」

 といって、頭を掻(か)いた。
「どうも、うといのだ」
「うとい……?」
「昔から相手の気持ちを考えなさすぎると、よくいわれた。だから女子(おなご)にも好かれぬ。……ゆるせ」
 篠塚が顔をのぞきこんできた。優しげな瞳。このまま縋(すが)りつきたくなった。
 自分は本当に男に興味がないのだろうか。篠塚に見つめられると頬が火照(ほて)り胸の鼓動が疾くなる。これは男女のそれと変わらないのではないか。
 どうかしている……。




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「三國屋物語」主な登場人物

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