活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~ -34ページ目

三國屋物語 第33話

「あれえ、松吉どん。そこで何しとるの」
 女のひとりが声をあげた。見ると、松吉が台所と部屋とに接する板の間にいて、こちらをうかがっていた。

 松吉がいった。
「篠塚さま」
「なんだ」
「先ほどから若旦さんが、さがしておられます」
「そうか」
 女殺しの一件だろうか。
 軽く汗をぬぐい表にむかうと瞬が向こうから、いそいそとやってきた。
「篠塚さん。どこにおられましたので」
「水汲みを手伝っていた」
「水汲み?」
「俺をさがしているときいたが」
「はい。土方さまと沖田さまが、篠塚さんにお会いしたいと」
 瞬は落ち着かないのか手の指をすりあわせている。
 さっそくきたか……。
「客間に待たせてございます」
「わかった」

 客間にいくと土方と沖田が、いかにもくつろいだ様子で待っていた。
 篠塚が、
「お待たせした」
 といって、膝をそろえる。先に口をひらいたのは土方だった。
「今日は芹沢局長から伝言(ことづけ)を頼まれました」
「芹沢先生から」
「今夜なんですが。腕鳴らしに稽古にでてみないかと」
「稽古……ですか」
「はい」
 沖田が必死に笑いをこらえている。土方がたしなめるように沖田の名を呼んだ。
「だって土方さん。親の仇みたいな顔をしてますよ。それじゃまるで果し合いの申し入れだ。ねえ、篠塚さん」
 土方が咳払いひとつして湯呑(ゆのみ)に手をのばす。後は沖田にまかせる気でいるのだろう。
「いえね。新選組には闇(やみ)稽古というのがあるんですよ。なんてことはない、剣をもった肝試しみたいなものなんですがね。これがことのほか実戦に役に立つ」
「昔から暗いのは苦手なのだが」
 沖田が声をあげ笑った。
「なんだ。冗談もいえる人だったんだ。どうです、そのまま新選組に入隊しては」
 篠塚が微苦笑をかえす。

「これは冗談じゃありませんよ」
 沖田の声が、いくぶん低くなった。
 土方をみると篠塚の腕のあたりに視線をむけている。昨夜の目撃者、つまり藤木が腕に負傷したとの情報が入っているとみていい。今日、篠塚のもとを訪れた目的は、その確認も含まれているのだろう。
 ここは誘われるまま稽古にでてみるか……。
「何時(いつ)ごろ伺えばよろしいか」
「出てもらえるんですか。これは楽しみになってきた」
「未熟者ゆえ、お手柔らかに」
「ご謙遜、ご謙遜。芹沢局長、べた褒めでしたよ。みただけで腕の程が知れたぞ……なんてね。今夜、四つ時というのはいかがです。誰か迎えによこしますよ」
「承知した」



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「三國屋物語」主な登場人物

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