「わーたーなーべーさん!」
「…はい」
「今日はなんの日でしょう!」
「バレンタイン…?」
「正解!本命ちょうだい?」
「ないです」
私は今、片想いをしている。
それは同じクラスの渡邉さんに。
そして、隣の席で本を読んでいる渡邉さんに話しかけている。
忘れ物を教室に取りに帰った放課後に、恋に落ちた。
窓側の席で本を読んでいる渡邉さんに。
窓に差し込む夕陽が、渡邉さんをより綺麗に照らしていて、目が離せなかった。
渡邉さんの邪魔をしないようにソッーと教室に入り、忘れ物をとって素早く教室から出る。
私の存在に気づいてないみたいだった。
教室のドアから渡邉さんを思う存分眺めた。
渡邉さんが本を閉じ立ち上がり、やばい!と思い、走って校舎から出た。
その日から、渡邉さんが気になって気になって、頭から離れてくれなくて。
すぐに親友の茜に連絡をした。
茜はビックリしたみたいだったけど、意外と似合うじゃんって言ってくれて応援するとも言ってくれた。
その次の日から、渡邉さんにアプローチをたくさんした。
たくさん話しかけた。
でも、振り向いてくれなくて。
敬語を使われて、塩対応をされて。
それでも諦めたくなかった。
だって、これは本当に惚れたから。
それからずっと話しかけて。
やっと連絡先を交換してくれた。
電話を何度もかけた。
なかなか出てくれなくて、これが最後!と決めたときに出てくれた。
相変わらずの塩対応だったけど、それすらも愛おしくて話が尽きなかった。
…というよりは、私がたくさん私かけた…??
そして今は、渡邉さんのバレンタインチョコが貰いたくて必死に強請っているところ。
あると思ってはいないから、ないと言われてもそこまでは落ち込まない。
少しは落ち込んでいるけど…。
帰りのSHRが終わった。
ということは、今日が終わるということ。
つまり、渡邉さんからバレンタインが貰えないってこと…。
あ〜やっぱり何か欲しかったな〜。
チロルチョコでもなんでもいいから欲しかった…。
「愛佳〜!部活行くよー!」
部活の友だちが私に声をかけ、カバンに教科書やノートを詰め込み、立ち上がる。
「あのっ…!志田さん…!」
隣から可愛い声が聞こえて、思わず振り向く。
そこには俯いている渡邉さんの姿。
「ないって言ったけど…」
手元には包装された何かが。
もしかして、バレンタイン…?!
「味は保証しないです…。いつも話しかけてくれてありがとうございます。」
えっ、ちょっと待って…
聞いてないよ?!
嬉しすぎてどうしよう
とりあえず落ち着け…。
「えっ!ありがとう!渡邉さん好きだよ!」
「よかったです」
優しく微笑む渡邉さんの笑顔が素敵すぎて…
思わず私も笑顔になる。
「愛佳ーまだー??」
私が渡邉さんからのプレゼントに浮かれていると、友だちの声で現実に戻される。
「今行くー!!」
そう返事だけをして、渡邉さんにお礼をたくさん言って友だちの元へと向かう。
貰えないと思っていたけど貰えて幸せだな〜。
いつか渡邉さんが隣で微笑んでいる日が訪れますように…。
終