沖で待つ // 絲山秋子 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
沖で待つ (文春文庫)/絲山 秋子
¥480
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 「沖で待つ」


 絲山秋子、著。 2006年。



 芥川賞受賞作。

とは言え、私的に「芥川賞」に思い入れはありません。

昔はともかく、近年は「作品の価値は読者ひとりひとり

が決めれば良い」と思っています。


 絲山秋子さんの作品は、等身大の心理が語られる。

必要以上に「女の情念・情慾」が強調されることもなく、

美化することもない。


 現代を生きる個としての自分を語る。

もちろん、作品はフィクションであり、主人公は自分その

ものではない。


 エピソードはあくまでも創作なのだが、作品を書くと言う

行為はつまるところ、自分について語ることに他ならない。

絲山作品には、特にその印象が強い。


 と、私は感じるのです。

そして、以前にも書きましたが、絲山作品を読んでいると、

自分の記憶が喚起されます。

絲山作品には郷愁を感じさせられます。



 同期入社の「太っちゃん」と交わした約束。

「もし、どちらかが先に死んだら、相手のPCのHDDを壊す」

他人に見られたくない、自分の秘密や恥ずかしい記録を

残したくないから・・・。


 ある日、突然の事故で死んだ「太っちゃん」との約束を

主人公は果たす。


その後、奥さんから「太っちゃん」の残したノートに書かれた

彼のへたな詩を見せられて、主人公は「意味ないじゃん!」

と思うのですが・・・。


 そこに書かれてあったのは、奥さんへの思いのたけを

綴った詩ばかりだった。


 「俺は沖で待つ

 小さな船でおまえがやって来るのを

 俺は大船だ

 なにも怖くないぞ」


 それは・・・、残せんわなあ・・・。

でも・・・、このへたくそな詩が、ホロリと・・・。


 新入社員時代の同期「太っちゃん」との信頼と友情を

描いた作品です。


 (でも、確かに死ぬ前に末梢しておきたい記録ってある

よなあ・・・。 恥をさらしながら生きているようなものだとは

言えども、後にまで残したくは・・・ない。)


 もう一作収録された「勤労感謝の日」も味のある作品

でした。

何故か、昔馴染の友人の言葉に耳を傾けるような気分

にさせられる・・・、そんな作品でした。