ラッシュ・ライフ // 伊坂幸太郎 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
ラッシュライフ (新潮文庫)/伊坂 幸太郎
¥660
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 「ラッシュ・ライフ」


 伊坂幸太郎、著。 平成十四年。



 仙台シリーズとでも言うべきでしょうか。

「オーデゥボンの祈り」「重力ピエロ」などと、同じ

時空での物語です。


 これにも、しゃべるカカシが話題として出て来ます。

さらに、この作品の登場人物・黒澤は「重力ピエロ」

でも、重要な役どころとして登場します。


 とは言え、それぞれに直接の関係は無い独立した

作品です。



 泥棒を生業ととする男は新たなカモを物色する。

父に自殺された青年は神に憧れる。

女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。

職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。

幕間には歩くバラバラ死体登場・・・・・・。

並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、

その果てに待つ意外な結末。 不思議な人物、

機知に富む会話、先の読めない展開。

巧妙な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、

今あがる。

 (裏表紙より引用)


 さて、この作品は五つ以上のストーリーが同時に

進行し交錯する展開になっているので、個々の

登場人物とストーリーを説明すると、トンデモナイ

長文になってしまいます。


 だから、あえてストーリーや登場人物には触れま

せん。


 「ラッシュ・ライフ」は、ある意味で人生そのものを

描いた作品です。 様々な人々がそれぞれに考え

行動する。 それは「個」としての決断・行動で

あるには違いない。


 しかし、同時にそれは他人との関わりにおいて、

結果が左右されてしまう。

「個」においては、それは偶然でしかない。


 しかし、それを一つ高い次元から眺めるならば、

個々の出来事には、それなりの関連性が認めらる

のかも知れない。


 この作品の最初のページには、エッシャーの

騙し絵が挿画されています。

城のような建物の屋上の、最初と最後が繋がった

永遠の階段を列をなして登る人々。


 一階下のバルコニーからそれを眺める人物。

さらに、玄関に向かう階段に腰掛けた人物。

これを眺める私たちはその全てを同時に見る

事が出来ますが、絵の中の個人個人には

目の前の己の人生のみが全てでしょう。


 そして、この作品を読み進める読者もまた、

個々のストーリーを追うだけで、その関連性が

解らない。


 物語が進展して行き、やがてその関連性が

徐々に解って来て、最後にそれが収斂する。

結果が出た時点で、偶然は必然として結実する。

ここにおいて初めて「伊坂幸太郎の騙し絵」が

完成します。


 ナルホド、これは人生そのものかも知れない。


 さらに、この作品において「未来を予見する」神

(と呼ばれる人物)が登場し、これは各ストーリに

よって微妙に違った視点で語られることになる。


 「オーデゥボンの祈り」においては、神=カカシは

物語の序盤で殺されました。


 「ラッシュ・ライフ」においては、神は殺されバラバラに

解体されながらも復活したり、あるいは殺されなかっり、

また存在しなかったりと、様々な視点での物語が展開

されます。


 ただ、いずれにせよ神は結局何ももたらさない。

ただ、在る。

伊坂作品は、人間の物語なのです。


 まあ、こんな書き方をすると、実に難解な物語の

ような感じですが、これは実に面白いエンターテイメント

です。


 ただ、好き嫌いの別れる作品かも知れません。

私は、当然「好き」です♪