金春屋ゴメス // 西條奈加 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
金春屋ゴメス (新潮文庫)/西條 奈加
¥540
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 「金春屋ゴメス」

 (こんぱるやゴメス)



 西條奈加、著。 2005年。




ああ・・Myu’s Style / とにかく本が好き!


 明けましておめでとうございます。

本年も、よろしくお願いいたします。



 明けても暮れても本の話。

これで良いのかと思いますが、まぁ、そんなブログ

なので、諦めて頂くしか術も無く・・・。


 新年、最初の本にふさわしいのかどうか分かりませんが、

暮れに読了したから

「金春屋ゴメス」でスタートします。


 昨年、けいちゃっぷさんのブログで紹介されていて、

読もうと言う気になりました。

それ以前より、書店でこの表紙とタイトルは気になって

いたのですが・・・、インパクトがあるし・・・。



 日本の国内にもう一つの国がある。

それが、「江戸」です。

その名の通り、江戸時代を再現した国で、鎖国政策を

取っています。


 日本は、この国を承認。

「江戸」は、れっきとした独立国家です。

入国は、一度だけしか認めておらず、一度出て行った者の

再入国は認められない。


 長期滞在者は、移民するしか無い訳です。

そして、この国へは、江戸時代の文物しか無く、江戸時代

に存在しない物は、一切持ち込めない。


 TVも電話も、そもそも電気すら無い。

全てが江戸時代そのものです。

元々は、金持ちの道楽だったのが発展して、このような国を

形成するに至ったと言う設定。


 ここに、主人公辰次郎が訳あって移民することになる。

そして、斡旋された就職先が長崎奉行所で、辰次郎はその

手下と言う事になります。


 この奉行所のメンバーは、奉行以下「金春屋」と言う

一膳飯屋の裏に住んでいるので、「裏金春」と呼ばれている。

そして、その奉行と言うのが・・・。


 

 胡坐をかいた輪郭は、さながら巨大な鏡餅だった。

そそけ立った髪が、鏡餅の肩をぞろりと覆う。

極端に吊り上がった細い眼が陰険に光り、横広がりの

低い鼻が、顔の真ん中に鎮座している。

顔の横一杯に広がった分厚い唇がたまらなく不快な上、

鼻の右下には、極めつけのように大きなイボがあった。


 江戸で誰もが恐れる、通称「金春屋ゴメス」。

本名、馬込寿々。 まん中を取って、ゴメス。

れっきとした、女性だ・・・、誰もが忘れているが・・・。


 性格は、傲岸不遜で兇暴。

怪力無比で、理不尽な暴れっぷり。

しかし、その実、途轍もなく頭脳明晰で、論理的思考を

する。


 手下たちは、ゴメスを恐れるだけではなく、内心では

どうやら尊敬している様子。


 江戸に流行する奇怪な流行病の原因を、主人公辰次郎や

裏金春一同が捜査すると言う物語。

最後は、ゴメスが大暴れ!


 なんだか、ギャグのように思われるでしょうが、これは

ギャグでは無い。 しっかりとしたミステリー(?)です。

痛快で、テンポ良く進行するドラマは実に面白い。


 実は、最後の方まで、「江戸」と言う設定が、この小説に

必要なのかと言う疑問を抱きながら読んだのです。

べつに江戸時代の話、つまり時代劇で良いのでは無いかと。


 特に、現在の日本と対比してストーリーが展開する訳では

有りません。 勿論、最終的にこの設定が生きて来るのですが、

その事より、「江戸」を選んだ「江戸人」たちの求めるものが、

ここにはあると言う事の方が重要なようです。


 軽々しい文明批判などここにはありません。

しかし、「江戸」を選択すると言う事は、何かを切り捨ないと

いけない。 その、決意は無傷ではいられない現実がある。

「それでも、なお選択すると言うことの意味」がこの作品には

あります。


 もうひとつ、作者がどこまで意図して書いたのかは

判りませんが、この設定の利点があります。

時代劇で有りながら、重苦しさが無いことです。


 無理なく、現代人の心理が持ち込める。

これが、この作品のテンポの良さに利する。

妙な違和感がなく、実に読みやすいのです。


 実に暑苦しい風貌のゴメス親分ですが、読み進む内に

この親分がだんだん好きになって来ます。

本当に、痛快で面白い作品です。


 そして、読み終えると、私たちの琴線に触れる何かが

ここには有る。

良いですよ、この作品。


 昨年末以来、意識的に話題作やベストセラーを何冊か

読んでいますが、・・・このような選択方法は確かにハズレもある。

でも、このような当たりが有るので楽しいですね。


 とは言え、今年も新作やベストセラーに拘らず、

読みたいものを読んで行くつもりです。

気長にお付き合い願えれば幸いです。