わずか24歳にして失踪してしまった…。
不思議な長い長い絵巻を残して。
私が藤牧さんを知ったのは、洲之内徹さんの「気まぐれ美術館」シリーズを読んで、です。

不思議な短い人生に惹かれたのでした。
藤牧さんは館林の出身です。
生誕100年ということで、群馬県立館林美術館で展覧会が開催されています。

館林美術館はとても広々して美しい建物で、別世界のよう。
建物に着いただけで贅沢な気持ちになります。

まず最初に、13歳の時に亡くなった父親の追悼本、「山岳全集」「山岳画集」が並びます。
布で装丁した手作りの本。
父親への強い思いを感じます。
16歳で上京し、働きながら木版画を学んだそうです。
故郷の「城沼の冬」。

紫から水色へと変化する静かな湖。
空気の冷たさが伝わってくるような風景です。
上野広小路を描いたといわれる「赤陽」。

勢いを感じる力強い線です。
藤牧さんは、大切なのはその時、その場であると考え、「その気持の変わらぬうちに」彫ったそうです。
そして藤牧さんといえば、隅田川絵巻です。
10数メートルにも及ぶ絵巻が4巻もあるのです。

川があって、橋があって、船があり、工場があり、お店があり、人がいる。
川沿いを自分もゆっくり歩いているような気分になります。
4巻とも、映像で再現されていますが、1本が20分くらいに及ぶ長さです。
どんな思いでこの長い長い絵巻を描き続けたのか?
洲之内さんは、実際にこの絵の風景をたどって歩き、藤牧さんの視点の素晴らしさをほめたたえています。
そして藤牧さんの描いた場所を検証したエッセイを書き、「藤牧義夫についてはもう一回書く」とありながら、その記事を最後に洲之内さんは亡くなってしまったのです。
藤牧さんについては謎ばかり。
忽然といなくなってしまった藤牧さんは、その後どうしたのか?
洲之内さんは、藤牧さんについてさらに何を書こうとしていたのか?
知りたいです。
今となっては知りようもありませんが。
想像をふくらませて、せつなくなるだけです。