『Every You,Every Me』
監督 Bogus Sutida Singharach
主演 Top Piyawat Phongkanitanon (1996年生
Mick Monthon (2002年生)
2024年制作
監督は女性で、この作品が初監督作品のようですが経歴を見ると非常に優秀な女性のようです。
他にキャストはGMMから移籍したFiatくんが非常にいいポジションで出演しています。
作品は全8話、5つのオムニバスストーリー
短編オムニバス。暇なときになにも考えずに見るにはちょうどいいかな。
そう思って見始めたわけです。
ということで騙されたと思ってそんな軽い気持ちで見始めてください。
最初のエピソード「ソウルメイトの伝説」では、Top演じるのは、一生懸命働いて自活している明るい貧乏青年サン。その明るさや強さ、そしてつぶらな瞳はどこか『Love By Chance』のCanを思い出しました。イメージはそんなちっちゃい男の子。
そしてMickが演じるのは、周囲からどこか浮いている硬質な感じの会社員ドン。55分の作品ながらよくまとまっていて、起承転結もいい感じだし、登場人物たちも魅力的。悪くない感じです。
では続けて第2話「僕、退職します!」も観てみようかな。
で、観て数秒で、ちょっと「え?え?え?」と画面を三度見すること間違いなしです。
あの冷たい硝子の少年、ドンを演じてたMickは、このEPでは髪の毛ウェーブのきゅるきゅる新人会社員に。
さらには貧乏で元カレにひどい仕打ちを受けてもけなげなサンを演じてたTopは、周囲から傲慢と評判のスーツの似合うCEOに。
それでもまだ、ここまでの三度見する首の角度はせいぜい90度ぐらいなんですよ。
第3話「出会いの日 別れの日」では、間違いなく目を剥いて「はああああああッ?!」と大声で叫ぶことになるでしょう。
驚いてほしいのであまり書きたくありませんが、書いちゃいますよ?
EP1ではクールで、EP2ではキュートな、それでも若くて華奢な青年だと思っていたMickが、EP3では
めっっちゃマッチョな働くお兄さん![]()
なんですもの・・・!
こんな肉体、今までどうやって隠してたん・・・??
そしてTopは儚げな美青年。
続くエピソードでも本当に驚きますよ。
正直、これだけでも俳優の様々な変化が楽しめて、十分興味深い作品じゃありませんか。
『メタBL』として語りかけるもの・その1 BLとしてのポジションの無効化
この作品は、2人の俳優が様々な役を演じ分けているのですが、EP2で彼らの関係性のポジションが変わることに気付かされます。
BL作品では長らく「攻め・受け」というポジションについて語られます。
作品の中で「どちらが攻めでどちらが受けか」というのは、それが語られていない作品の場合は論争になる場合もあります。これは、元来はオタクたちがその作品世界だったり、または登場人物たちの性格や性的志向をどう解釈するか、について考察しあうことだったと思います。その考察に対する差異はしばしばもう少し大きな論争となり、それを楽しむ人もいれば相容れない人もいて・・・という感じでしょうか。
BL作品を俳優が演じるとき、オタクたちはそこで生まれた「攻・受」ポジションを別作品で覆されることを厭う層も生まれます。しばしば、作品本来の出来よりも、その点でファンが離れたりすることもあるようです。
BLファンの中では、演じている俳優たちが別作品でも共演を望むこと、そして「左右固定」とも言いますが、攻受というポジション
固定のままでいてほしい、そういった願望がよく見受けられます。
興味深いのは、この『Every You,Every Me』という作品は、2人の固定した俳優が様々な役を見事に演じ分けることによって、その「左右固定」という概念を無効化していることです。
面白いのが実際に、後半のエピソードですが「今度は上と下、逆にする?」なんてセリフも出てくるのです。これは、この作品全体を通してまるで視聴者に問題提起してるセリフのようでもあり、非常に興味深いです。
役柄のポジションを固定しないことで、TopとMickは俳優としてのポテンシャルをどこまでも広げられますし、そしてそれに応えています。
『メタBL』として語りかけるもの・その2 私たちが観ているものはフィクションである
作品の内容について、これ以上詳細に語るのは面白さを半減させるのでやめておきます。
ただ、この作品が後半になればなるほど、入れ子構造を用いて「メタフィクション」としての特性を表していくのです。
あるエピソードでは、ドラマを制作している現場が登場します。
私たちはどんな作品でも、作品の世界観の中に没入していきますし、その俳優たちの演技をまるでどこかの世界で起こっているホンモノのように観てしまいます。
見つめあう。その目の中に欲望を感じて自分も相手を求めていく。息が荒くなる。身を引いて相手を呼び寄せる、例えばベッドルームに。
そういったシーンを見るたびに、俳優のその目の中で開く瞳孔や、わずかに動いた下瞼の痙攣とか、そういったものの中に「本当の想い」を探して感情移入するし、感情移入させてくれる俳優をいい役者だと思うし、ファンになる。
けれど、そのシーンをカメラから観てOKを出したり、それではだめだと指示する監督がいて、シーンを説明する助監督がいて、次の撮影のために小道具さんや衣裳・メイクさんもたくさん控えてその演技を見守っているのですよね、実際は。たくさんのスタッフに支えられて、そのフィクションが視聴者に「本物」だと感じさせるよう作っている、ということを、この作品では表すんですよ。
「ワークショップ」のシーンも非常に興味深かったです。実際にタイの俳優はこういうワークショップを重ねてドラマに出演しているんだなあ。閑話休題ですが、BillkinPPの『I Promised You The Moon』ではBillkinがワークショップを受けるシーンが出てきますが、あれは結構アーティスティックな演出でありシーンでしたが、この『Every You,Every Me』で登場するワークショップは結構現実に近いのではないかしら。そしてそれを演じているシーンも、これは巧いな、と言わざるをえません。
私たちファンにはいろんなCPの推しがあります。
そのふたりが本当に「永遠の恋人同士」だと強く願っている層はかなり多いと思います。
「すべての俳優がそうじゃなくても、でも〇〇●●だけは!」と思っていたり、しますよね。
そして私たちは時折、そのファン自体が、その後の彼らの俳優としての活動を阻んでしまった事態を何度も見ています。
このオムニバス作品がどう閉じるのか、は実際に観てほしいところです。
しかし、この作品が私たちに語りかけているのは、「私たちが観ているBLドラマは、フィクションなのである」と改めて明言しているということです。
たくさんの人たちで作り上げている作品に対し、思い切り笑ったり泣いたりして、感情を揺さぶられたりして楽しんで。
でもそのあとは、俳優やスタッフたちの私生活を邪魔せず、彼らの幸せを静かに祈っていましょうよ。
みんなが余計な願望を押し付けないように。
作品や俳優が売れるということを考えると、線引きは本当に難しい。
でも私は、作り手がいつでも自由で、そして幸せであってほしいと思っています。
そしてこのドラマにもまたのめりこんで、それぞれのTopとMickが演じたふたりの永遠についてやっぱりどこか本当のことのように思えちゃったりしてるわけなんですけれど、この作品を終えてまたTopは別の作品で別の男の子とのCPでドラマにいっぱい出演しているのね。ほんと、どのドラマも心の中にしばらく大きな余韻を与えてくれる素敵な夢なのよ。
とってもきれいな箱をいただいて、そのお礼を言おうと思ったら、すでにこれをくれた人たちはどこかに行ってしまってる。ひとつの作品をたのしんだ後は、そんな寂しさが少しだけ残る。






























