「なにかがっつりと心に響くものが観たい!」
と思っているかたに今、強く強くお勧めしたいのが、タイドラマ『Shine 月の裏側で僕らは輝く』です。
視聴できるのは2026年2月現在、U-NEXTのみでさらにポイントなどによる課金制、ということで視聴ハードルは高めですが、U-NEXTに加入しているかたはほんとぜひ!
そして繰り返しますが「なにかがっつりと心に響くものを観たい!」と思っているかた。
そのこころをきっと満たしてくれる作品かと思います。
政治と経済と愛の自由を描いたこの作品。こんなん、アジアではタイでしか作りえないかも。
物語の設定と人物
背景は1969年から1971年の政治およびカルチャーが混迷するタイ。軍事政権も勢いを増していて、それに対する学生の反体制派デモも盛んに行われている。
折しも発電所建設計画に、資本家と軍の上層部との癒着が疑われている。それを背景とした、パリから帰国したばかりの経済学者トリンと、資本家の息子で平和と音楽を愛するヒッピーのタンワー、反体制デモの中心人物である学生ビクター、トリンの叔父で軍の上層部クライルート大佐、そして真相を追い求める新聞記者ナランら5人の物語です。
キャスト・スタッフ
『Shine』
制作 Be On Cloud
監督
Ning Bhanbhassa Dhubthien(他、『4Minutes』など)
Pond Krisda Witthayakhajorndet(他、『Kinn Porsche』など)
Jean Khamkwan Duangmanee
キャスト
この作品の見どころ
映画には、暗闇の中で集中しながら不特定多数の他人と共に一気に観ていく楽しみがあります。
しかしドラマには、毎話1話ずつを楽しみにしながら時間をかけて堪能していく楽しみがあります。映画より数段に時間もかけてひとつの作品を描くことができます。
この物語はタイの政治や経済の暗部を描いている作品であるため映画に向いているようにも思いますが、全部で約9時間をかけて人物の背景から心の動きを繊細に絡めて描いているため、見ごたえが半端ないです。
現代に生きる私は、「とにかく今、私の周辺だけでも戦争に巻き込まれないように」と思っています。世界のあちこちで紛争が起こっています。それなのに「とにかく今、自分の周辺だけは」というのはあまりに身勝手な考えかもしれないけれど、すべての人がそう思って、すべての人の周辺から理不尽な争いがなくなれば・・・と思うのですが・・・それもあまりにも実現不可能な理想なのでしょうか。
この作品を観ながら、人間はこれまでずっと(そして今も)生きていくために戦わざるを得なかった、ということについて考えていました。その日の糧を得るために、から始まり、奴隷にならないためにとか、生きる権利を獲得するために、と様々な理由で戦わざるをえませんでした。今の私たちに選挙権があることも、学ぶことができることも、職業を選ぶことができることも、それらの戦いの末に立脚した権利です。それに至るまでにはどれほどの人が無残な死を迎え、それに対して残された人が泣いたのか。みな、自由と権利を勝ち取りたいけれど、しかし誰だって死にたくなどないのです。それでも、今日のことよりも、明日のことよりも、もっと先の未来のために戦った人たちで「今」ができているのです。
私はその時にその場にいたら、そんなふうに戦えるのでしょうか。
実際にはどんな戦いも、多くの人はただ巻き込まれているものなのではないでしょうか。人がただ、戦いの中のひとつの駒となって命を懸けて動いている。残念ながらこの地球で、人間という種族はそのようにしか生きていけないのでしょう。
そのような時代で、ゲイというマイノリティとしてその世界をどう生きていくかと戦っているふたりの人間がいます。クライルート大佐と反体制派の学生ビクターです。そしてもとは異性愛者だったようですが同性の男に恋をした男たちもいます。
タイという国を、貧困の人々を救済し、平等で、そして様々なひとりひとりの人が平和に生きる権利のために戦う彼らたち。一瞬の幸福とそれを切り裂く絶望。
繰り返されるそんな日々を乗り越えて「今」があるのだと感じる作品です。
どんな絶望の夜があっても、また次の日には陽が昇る。変わらないけれど変わろうとする今日が始まる。その朝の陽の美しさを、私も登場人物と共に泣きながら見つめました。
ラストシーン。そこは2025年のタイ。同性婚が法律で可決されたこの時、この作品の登場人物の二人が海を眺めています。
苦難の時代を乗り越えてふたりはきっと結婚したのでしょう。
ドラマが現実の、今のタイに結びついた瞬間です。
タイで同性婚の法制化が決まった瞬間。及びそれが実際に施行された日。メディアではそのアイコンになるようなハンサムでお互いに自立した有名俳優カップルたちが多く取り上げられてました。しかし中には老齢カップルもSNSの写真に写っていました。その人たちももしかしたらこの時代から付き合っていて、ともに長い時代を経て今に至った人たちなのかもしれません。
ラストシーンでの作中の彼らは2025年では多分、70代半ば。希望を持ちながらふたりであれから50年を過ごしてきたのか。そこで重ねあう老いた手と手。
作品の中に登場したすべてのひとたちが過ごした人生の時間が、見終わった後も深い余韻となって気持ちを満たしてくれる作品でした。
ドラマを選ぶときに、「好きな俳優」や「疲れた日常を束の間忘れさせてくれる温かい作品」で選ぶ人も多いと思うのですが、もしもなにかがっつり見ごたえのある作品を望んでいるのでしたらぜひおすすめです。
もしも見終わって、気に入ったら、そしてBe On Cloudの作品がまだ未見であれば、同じくU-NEXTで視聴できる『Kinn Porsche』『4Minutes』も観てほしいです。
スタッフ・キャストについて
主演はBe On Cloudを代表するMileさん、Apoさん。ほかに脇で『4Minutes』で熱演したFuaizくんが、ビクターの友人のウットとして出演しています。
トリンの友人タナコムに、元NadaoのOabさんが出演。
そしてこの作品でもっとも強烈な印象を放ったプラチャー陸軍大将は、『Spare Me Your Mercy』他、どの作品に出演しても異彩を放つ Gandhi Wasuwitchayagitさん。
この作品のプロデュースはBe On CloudのCEO、Pondさんで、監督と脚本にも参加しています。
作中の音楽にも力を入れるPondさん。『Kinn Porsche』同様、SLOT MACHINEやSeason Fiveらの楽曲を使用し、エンディング曲も回によって変えています。
音楽から60年代終わりから70年代にかけての世界的な変革を予感させるムーヴメントを感じさせます。
作品の質を考えてもやはりBe On Cloud、資金は潤沢にあるのかなあ。そして今もタイには軍があり、特に昨今は政権交代が頻繁に行われて不穏な情勢は未だあるタイで、このような作品を作っていくことは本当にすごいし意義のあることだと思います。




























