ウェルカム トゥ ダリ Daliland | akaneの鑑賞記録

akaneの鑑賞記録

歌舞伎や演劇、映画、TVドラマなど鑑賞作品の覚書

 

 

 

 

名優ベン・キングズレーが20世紀を代表する天才芸術家サルバドール・ダリを演じ、その奇想天外な人生を描いた伝記映画。

1985年、サルバドール・ダリが火事で重傷を負ったというニュースが世界に衝撃を与える。それをテレビで知ったジェームス・リントンは、ダリと過ごした奇想天外な日々を思い出す。1974年、ニューヨーク。画廊で働きはじめたジェームスは、憧れの芸術家ダリと出会う。圧倒的なカリスマ性を持つダリと、彼に負けないオーラを放つ妻ガラに気に入られたジェームスは、ダリのアシスタントを務めることになり、ダリが生み出す不思議で危うい世界へと足を踏み入れていく。

 

 

 

 

 

 


70歳になったダリ。
相変わらずのパーティ三昧、妻のガラ(バルバラ・スコバ)と共に贅沢三昧の日々を送っています。

 

 

 

展覧会を開催してお金を回収しようと焦る画廊のマネージャーは、ダリを監視し、なんとか絵を描かせるために

 

 

 

美大卒新人のジェームズを送り込みます。

 

 

 

美しい容貌とよく気が付く青年ジェームスをダリとガラは気に入り、「セバスチャン」と名付けて、傍におきます。

 

 

 

ジェームズは、天才芸術家の驚くべき日常に翻弄されながら、ダリの過去にも触れていきます。

 

 

どの程度、史実に基づいているのか分かりませんが、ダリのサインが何十種類もあったというのは、自由奔放な彼らしいエピソードだと思いました。


 

 


ダリは1904年5月11日、スペインのカタルーニャ地方フィゲーラスで、わりと裕福な家庭に生まれました。
1922年、マドリードの王立サン・フェルナンド美術アカデミーに入学し、1927年にはパリに赴き、パブロ・ピカソら、シュルレアリスムの中心人物たちと面識を得ます。

 

 


ダリといえばこういう奇抜な表情のポートレートが多いですが

 

 


若い頃はとってもイケメンですね!!

 

 


若き日のダリをエズラ・ミラーが演じているのもイメージピッタリです。


 

 

 

 

 


1929年夏、ポール・エリュアールが妻とともにカダケスのダリを訪ねた際、ガラ・エリュアールと出会いました。
ダリとガラは強く惹かれ合い、1934年に結婚します。

 

 

彼はガラを聖母に見立てた宗教画を数多く描きました。
ガラはダリのミューズであり、支配者であり、また有能なマネージャーだったのです。

 

 

 

 

ダリの最も有名な作品「記憶の固執(柔らかい時計)(La persistencia de la memoria)」は、1931年の作。

 

 

 

溶けるカマンベールチーズを見て、この時計のインスピレーションを受けたという説を、映画でも描いていましたが、この絵が映画内で映されない、ということは、著作権が非常に厳しいのでしょうか。





ダリとガラは、強い運命に導かれて巡りあった二人というか、とてもお似合いの夫婦だったと思います。

 

こちらはご本人夫妻。

 

 

でも、紆余曲折の人生を共に歩いてきたからこそ、お互いに一緒にいると「年を取った」ことを、痛感してしまうんでしょうね。

鏡を見ない限り、自分の姿からは目を背けて居られるけれど、目の前に相手がいると、その「老い」を目の当たりにしてしまうから。
時の流れというのは、とても残酷。

 

 


ダリはガラを見ていると、かつて自分が輝いていた時代を思い知らされていたたまれないのでしょう。
それを忘れるため、永遠の若さを求めて美しい女性や男性を侍らせ、パーティ三昧の生活を送るけれど、心に残るのは虚しさだけ。

 

 

 

 


ガラにとってのダリは

無名の天才画家を売り出すため、文字通り靴に血をにじませながら絵を売って歩いた過去。
そうやって自分がダリを世に知らしめたのだという自負。

でもその輝いていたダリが、年を取り、才能がしぼんでいくのを見るのが耐えられないのです。

 

 


日々、藻掻いているダリを見るのも辛いし、自分をないがしろにして、若い女とパーティ三昧なのも気に入らない。

 

 

 

だから当てつけのように若い役者に入れ込んで、その彼をまた世に出そうとしているんです。
全然才能がないのは分かっているけれど、そこは見ないようにして、かつてのように1人のアーティストを売り出すことで、昔の自分をトレースしている。

 

 


その二人の気持ちや焦りが凄く伝わってきて、切なかったですね。
昔の栄光、かつての激しい日々から逃れられない呪縛。

 

 

 


そこにつけこんでくるのはエージェントたち。
死ぬまでの間に、ダリからとことん搾り取ってやろうという魂胆です。
彼らも、ダリのワガママにずっと付き合って、無理難題をきいてあげたんだから、このぐらいは返してもらわないとって感じなんでしょう。





そういうドロドロした関係を、観客目線で、フレッシュな感性で紐解いていくのがジェームズです。


ダリの奇想天外な人生を目撃する青年・ジェームス役を演じるのは、本作が長編映画デビューとなる新人俳優のクリストファー・ブライニー。
劇中で、ジェームズはダリに「天使の顔だ」と気に入られた青年で、脚本では「カラヴァッジョの絵画に出てきそうな顔」と書かれているキャラクターです。

 

ハロン監督は「天使のような美貌と演技力を持つ俳優」「NetflixやAmazonのシリーズにもまだ起用されたことのないようなフレッシュな俳優」を探して、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスの名門演劇学校を卒業した俳優名簿を入手し、各演劇学校の卒業公演をオンラインで視聴した末、クリストファー新星を見つけ出したそうです。

 

彼はまさに「聖セバスチャン」という呼び名に相応しい俳優でしたね!
ジョンとかピーターじゃなく、セバスチャン!

 

 

まだ世俗にまみれていない、若く純粋な彼の目線で描くことによって、この映画がもたつかず、スッキリと美しくまとまっているように思います。




晩年のダリ。

1982年にガラが死去すると、「自分の人生の舵を失った」と激しく落ち込み、ジローナのプボル城に引きこもった。
1983年5月を最後に絵画制作をやめている。
1984年には寝室でおきた火事でひどい火傷を負い、フィゲラスに移った。
1989年にフィゲラスのダリ劇場美術館(en:Dali Theatre and Museum)に隣接するガラテアの塔で心不全により死去。84歳没。

 

 



ダリは、シュルレアリスムの世界観、自分の絵画の世界観を表現するために、奇人を演じていたかもしれませんが、本当はとても繊細で寂しがり屋で、ガラに守られて生きていた人なんじゃないかなと思いました。

 

 

 


ベン・キングズレーさんの演技はとても素晴らしかったです。


 

 

でも、ご本人の方が、さらにインパクト強いですね。