桜の園 in パルコ劇場 | akaneの鑑賞記録

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チェーホフの有名な、そして最後の戯曲「桜の園」。
今回の演出は、ロンドンのグローブ座で準芸術監督を務めるショーン・ホームズ氏です。

 

 

 

 

 

そして実力派が揃った豪華な俳優陣。

 

 

 



『桜の園』は、1902年チェーホフ42歳の夏に着想され、1904年モスクワ芸術座で上演された日は、チェーホフ44歳の誕生日でした。この日はまた、チェーホフ筆歴25年の祝賀が兼ねられていましたが、その頃すでに病み衰えていたチェーホフは、晴れがましい劇場の舞台の上に立ちつづけることさえできず、5か月後には亡くなりました。





同じフロアにある映画館は良く行くのですが、パルコ劇場は、コロナで中止になってしまった公演などもあり、改装後に行くのは初めて。
赤とグレーを基調にした落ち着いた中劇場です。

 

 

 


「パルステ」で抽選申し込みをしたチケットでしたが、なんと最前列のど真ん中!ビックリ!

 

 

カーテンコールとかで前にずらっと役者さんが並ぶとドギマギしてしまいます。

 

 



舞台上には高さ20センチほどのステージが1つ。
後ろには、殺風景な工事現場のようなスチールの仕切りが並び、
ステージに覆いかぶさっていた分厚いコンクリートの壁が上がるとお芝居が始まります。

そのコンクリートの壁は常時、役者の頭上に重くのしかかるかのように存在しています。

 

 



《あらすじ》

 

外はまだ凍えるように寒い5月。
領主のラネーフスカヤ(原田美枝子)が,娘のアーニャ(川島海荷)や同行していた娘の家庭教師シャルロッタ(川上友里)と共に、5年ぶりにパリから帰ってくる。帰還を喜ぶラネーフスカヤの兄ガーエフ(松尾貴史)、養女ワーリャ(安藤玉恵)、老召使フィールス(村井國夫)、管理人のエピホードフ(前原滉)、メイドのドゥニャーシャ(天野はな)や近くの地主ピーシチク(市川しんぺー)たち。

 

 

 

留守の間に領地を任せたガーエフには経営の才はなく、ワーリャが取り仕切るも、負債は膨らむばかり。借金返済のため、銀行は8月に領地である“桜の園”を競売にかけようとしている。

 

 

 


※第二幕
“桜の園”の農夫の息子だったロパーヒン(八嶋智人)は今や実業家。

彼は桜の木を切り払い、別荘地として貸し出せば、競売は避けられると助言する。しかし、美しい“桜の園”を誇りにするラネーフスカヤとガーエフは破産の危機も真剣に受け止めようとしない。

 

以前よりエピホードフから求婚されていたドゥニャーシャは、ラネーフスカヤに仕えてパリで暮らしていた召使ヤーシャ(竪山隼太)に惹かれるようになり、アーニャは、大学生であるトロフィーモフ(成河)が抱く新しい思想に触れて、“桜の園”の外で新しい生き方を選ぶことを考え始めていた。

 

競売まで一か月と迫る中、ロパーヒンはラネーフスカヤとガーエフに、領地を別荘地にして競売を避けるようにと説くが、二人は承知せず、あてにならない話にすがろうとする。

 

 

 


※第三幕
“桜の園”競売の当日にもかかわらず、相変わらず呑気なラネーフスカヤたち。破局の到来に気がつかぬかのように開かれている舞踏会、はかない歓楽。

 

桜の園を競売で手に入れた、むかしの農奴の子、商人ロパーヒンの歓喜のあまりの長ぜりふ。ラネーフスカヤは身をすぼめて、はげしく泣く。そこへガーエフとロパーヒンがやってきて、競売の結果を報告するのだが……。

 

 

 


※第四幕
ラネーフスカヤが領地を引きはらい、ヤロスラーヴリのおばさんから送ってもらった金をあてにしてパリへ発つ日。一家の人びとはちりぢりに散って行く。桜の園の終焉。
来たるべき新しい時代を見据えて変革をいとわない人々。対して、落ちぶれてもなお、過去にすがり現実を見ようとせず時代の波に取り残される領主貴族たち。それぞれが向かう先とは……。






崩壊していくロシアの貴族社会。
新時代に馴染めず、理解できずに没落していく貴族たち。

というテーマでは、1875年に書かれたトルストイの「アンナ・カレーニナ」にも通じるものはありますね。
「桜の園」は、恋愛に重きは置かれておらず、チェーホフ自身が「喜劇」と称したように、富裕層をを皮肉った内容ではありますが。



原田美枝子さんのラネーフスカヤ夫人、浮世離れした雰囲気がとても良かったです。

 

 

蝶よ花よと育てられたお嬢様のまま大人になり、お金など湯水のようにどこからか湧いてくると思っている人。
パーティでのカルメンのような真っ赤なドレスも良くお似合いでした。
兄のガーエフ(松尾貴史)も、近所の地主のピーシチクも同じように愚かでおめでたい領主。

唯一、ガーエフの養女のワーリャ(安藤玉恵)は働き者で常識人ですが、彼女1人の力ではなんともなりません。
 

 

 


対照的なのは幼少の頃、領地で百姓をしていた農夫の息子ロパーヒン(八嶋智人)。

 

 

 

目端が利いて、今や大金持ちとなった彼は、ずっとラネーフスカヤ夫人に憧れ続け、ようやく対等にモノが言えるようになったと思っていますが、彼らにとっては下僕のまま。
別荘地にして貸し出せば、その収益でこのままここで暮らしていけるとどんなに進言しても全く聞き入れてもらえません。

 

その案が成功するかどうか、そのためになぜ、桜の木を全部切り倒さなければいけないのかは、ちょっと分かりませんけど。
結局、自分自身で買い取った「桜の園」なのに、ロパーヒンは彼らを全員追い出し、そのまま住まわせたりはしないんですね。

 

 

周りの人はみな、ワーリャとの結婚を勧め、ワーリャも想いを寄せているのですが、結局プロポーズはせず、去っていく。
そのあたりの冷酷さが沁みました。

それにしても八嶋さんの声の大きさ!!

凄いパワーです。

 

 

 

安藤玉恵さんは、最近このCMでも注目されましたよね。

 

 

やっぱり演技巧いですーーー!

 

 


そしてそして、大好きな成河さん!!

万年大学生で理想論ばかり語るトロフィーモフ役。

ラネーフスカヤの死んだ息子の家庭教師で、ラネーフスカヤに憧れています。

 

 

もうね、やっぱり圧巻!
あの滑舌の良さ、様々に変わる声のトーン。
かぶりつきの席でしたらから、ちょっとした目の表情だけで空気が変わるんですよーーー
鳥肌モノでした。
 

 

 


川島海荷ちゃんは、セリフがもう一つ、ってところはありましたが、まぁこのメンバーですからね。
頑張ってたと思います。
ともかく可愛いし、母親ほどじゃないけれど、まだまだ世間の冷たい風を知らない17歳がピッタリでした。

 

 

 



家庭教師のシャルロッタ(川上友里)
メイドのドゥニャーシャ(天野はな)
お二人は、初めましての女優さんでしたが、なかなか存在感があって、印象に残りました。

 

 

 

 


現代的な、やや無機的なセットや衣装、ショーンさんの演出は非常にそぎ落とされたクールな運び。
一歩間違えると古臭いお芝居になってしまう古典ですが、人間の本質がより浮き彫りにされる感じがして、とても面白かったです。


終演後は、八嶋智人さん、市川しんぺーさん、川上友里さんによるトークショーもあり、稽古場や演出のお話なども聞けて、大変充実した鑑賞となりました。


 

《追記》

この記事が、昨日、八嶋智人さんにリツイートされていてビビってます!