沢田研二が主演を務め、作家・水上勉の料理エッセイ「土を喰う日々 わが精進十二カ月」を原案に描いた人間ドラマ。「ナビィの恋」の中江裕司が監督・脚本を手がけ、原作の豊かな世界観に着想を得てオリジナルの物語を紡ぎ出す。
長野の人里離れた山荘で1人で暮らす作家のツトム。山で採れた実やキノコ、畑で育てた野菜などを料理して、四季の移り変わりを実感しながら執筆する日々を過ごしている。そんな彼のもとには時折、担当編集者である歳の離れた恋人・真知子が東京から訪ねてくる。2人にとって、旬の食材を料理して一緒に食べるのは格別な時間だ。悠々自適な暮らしを送るツトムだったが、13年前に他界した妻の遺骨を墓に納めることができずにいた。
ツトムの恋人・真知子役に松たか子。料理研究家の土井善晴が、劇中に登場する料理の数々を手がけた。
11月に入ってから封切りの映画、急に増えましたよね?
仕事は忙しくなっちゃうし、見たい映画の半分ぐらいしか行けなくてあーーーーーって感じです。
この映画も、ずっと楽しみにしていました!!
映画は雪深い1月から始まります。
今日は、恋人の真知子がやってくる日。
膝まで積もった雪を踏みしめ、保存してある小芋を取り出します。
土を洗い落とし、皮を少し残して剥いて、囲炉裏で焼き、熱燗を嗜む。
無邪気に熱々の小芋ををほおばる真知子がとてもチャーミング。
啓蟄 立夏 といった暦ごとに紹介される、ツトムの日常と料理。
食材を取りに行き、丁寧に洗い、調理し、食す。
たったそれだけのシンプルな、でもとても手間のかかった一連の営みが繰り返されます。
薪と釜でご飯を炊き、
暖を取るのはこたつと囲炉裏、
灯かりはランプ。
でもお仕事してるから電話はある(笑)
季節ごとに表情を変える自然の佇まい
木々が芽吹き、蛙が啼き、鳥が飛び立つ
ほうれん草の茎と根っこを丁寧に洗って泥を落とす
それだけの映像なのに、なんて美しいんでしょう!
野菜などを洗うシーンがたくさんあるのですがその水の冷たさまでもが伝わってきますし、福々しい出汁の香りや炊き立てのご飯の匂いどころか、数々のお料理の味まで伝わってきて、とても幸せな気持ちになりました。
大ぶりにざっくり切って炊いたタケノコ!!
おいしそうだったな~~~!
かぶりつきたいな~~!
日本の四季の美しさ、それこそ土の香り、自然の恵みが一杯に詰まった映画です。
松たか子さん、もっと一杯出番があるのかと思いましたが、それほどでもなく、ツトム一人きりのシーンもたくさん。
作家らしく、先人の言葉と思われる一節や、素材や料理手順のナレーションが入ります。
ちょっと棒読みっぽいのですが、沢田研二さんの声がとても素敵で趣があります。
昔、お世話になった禅寺の娘さんとして訪ねて来る檀ふみさんの上品さと
亡くなった妻の弟夫婦、西田尚美さんのちょっと俗っぽい感じの対比も巧いな~と思いました。
中盤、義理の母(亡くなった妻の母)の葬儀を自宅でやることになり、(この写真の表情、素晴らしいですよね!!)
お通夜の食事を振舞うシーンがピークかな。
ゴマの実を落として皮をむき、擦って出汁で延ばして、練った葛とあせてゴマ豆腐を作るなど、手の込んだ精進料理が振舞われます。
映画の中では「60代男性」との設定でしたが、沢田研二さん、実際は74歳とのこと!
体つきはふくよかになりましたけど、身のこなしが軽やかで驚きました。
枯れているんだけど艶っぽさもあり、生命力があるんだけど無理はしていない。
あの大自然に負けない存在感。
決して贅沢はしていないし、厳しい自然の中での暮らしだけれど、悠々自適の余裕がある。
禅寺で修行をした経験、そしてそれまでに積み重ねてきた知的な経験が、美しく実を結んでいる生活。
「ここで一緒に住まないか?」って言ったとき、真知子に向けた眼差しが、とても優しくて、でもそこはかとなく色っぽくてドキッとしました。
監督が「ぜひ沢田研二さんに」と熱望したキャスティングというのは大納得です。
好きな人と美味しい料理を食べるのが
何よりも幸せで楽しいこと。
そういう気持ちで真知子に言葉をかけましたが、義理の母の死、そして自身も心筋梗塞で倒れ3日間、生死の境を彷徨う経験をしたことにより、急激に「生と死」を現実のものとして意識するようになってしまいます。
こんなに空気の良いところで暮らし、毎日体を動かして、精進料理を食べているのに、心筋梗塞になっちゃうんだ…って思いました。
タバコも吸わないし、体に悪そうなものは一切食べてないのにね~
年の離れたツトムと暮らすことについて、真知子はもちろんそのことを考えただろうし、考えたうえで「一緒に暮らす」と答えを出すのですが、ツトムは、真知子にその重荷を背負わせたくなく、申し出を断ってしまいます。
真知子としては、自分も覚悟して決めたのに、急にハシゴを外されて複雑な気持ちだったでしょう。
最後の別れ方があまりスッキリとしなくて、少しモヤモヤしました。
でもそれが現実ですよね。
後半は、お料理のシーンが少なく、死生観を問うような内容になります。
まだ先の人生の長い真知子を、中途半端に引き留めることもできないけれど
「その日、1日だけを生きる」
「翌朝目を覚まさないことを覚悟して床に就く」
そうやって独り、誰にも看取られずに最期を迎えることを見据えて生きていけるのは、やはり禅寺で幼少期を過ごしたこともあるのでしょうか。
ラストはまた、美味しいお料理を食べるシーンで終了です。
そしてエンドロールで流れる曲「いつか君は」が素晴らしかった。
1996年発売のアルバム曲をリマスターしたものだそうです。
沢田研二さんの艶やかな歌声に感動しました。
歌詞もこの映画によく合っています。
とても心が穏やかに、澄み切った気持ちになる映画でした。
おススメです!!